平成五年刑(わ)第七一一号   業務上過失傷害

 

                 訴因変更請求に対する意見

 

                                        

 

検察官の一九九四年二月二日付け訴因変更請求に対する弁護人の意見は次の通りである。

 

     一九九四年二月二五日

 

                                                      

 

東京地方裁判所刑事第六部     御中

 

                            

 

第一    結論

検察官の訴因変更請求には異議がある。

検察官の訴因変更を許さないとの決定を求める。

第二    理由

   検察官は今回の訴因変更請求(実に三度目の訴因変更である。)において、一九九三年一二月一日付け訴因変更請求書において主張した注意義務に加えて、「……などの安全確保の措置を講じて同歩道上を横断すべき」注意義務があると主張した。この主張は極めて漠然としたものであり、被告人としては具体的に防御のしようがない。そこで、弁護人は「などの安全確保の措置」の内容を明らかにするよう釈明を求めた。

     これに対して検察官は、第七回公判(一九九四年二月二日)において、次のように釈明した。

「今まで三点の注意義務を示したが、右方の安全確認義務の他に故障車をロープで牽引している状況を通行する自転車、歩行者に気付かせ停止させるための安全確保の措置をとるべき注意義務があり、その方法として、ロープに明認方法を施し、見張りを立てる以外にもあり得ないではないという意味で変更の申立てをするものである。『など』の内容としては、例えば被牽引車の運転者である父親と事前に十分打ち合わせのうえ、窓を開けて大声で、あるいはスピーカー等で警告を発しながら通るということも状況によっては考えられるという趣旨である。」

   検察官のこの釈明によると、結局、状況次第で本件当時の被告人の注意義務の内容は具体的に決まるのであり、被告人はその前提としていかなる方法であれ、何らかの方法で故障車をロープで牽引している状況を通行する自転車、歩行者に気付かせ停止させる義務を負うというのである。

     このような一般的な注意義務を述べるだけでは、被告人の防御の対象は漠然としたままであり、訴因は不特定と言わなければならない。例えば、検察官はこのような注意義務の一例として、父親と事前に十分打ち合わせをして、窓を開けて大声を出したり、スピーカーで警告を発することを挙げているが、このような考えられるあらゆる措置の全てについて被告人の方で想像力を働かして、反論しなければならない(事前に打ち合わせが可能であったのか、スピーカーを用意する余裕があったのあか、窓を開けて大声を出すことは可能であったのか……これらはいままで、全く争点になってこなかった事実である。)というのは明らかに不当である。

     この意味で、本件訴因変更を認めることは刑訴法二五六条三項に違反して、訴因を不特定にするものである。

   検察官の今回の訴因変更請求は、三度目のものであり、しかも公判の最終段階におけるものである。すでに事件から一年七ヶ月、起訴から一年四か月を経過している。

     当初の訴因及び最初の変更後の訴因に対する被告人の無罪の主張がようやく成功した段階で、検察官は、それまでの過失とは全く内容の異なる過失を内容とする二度目の訴因変更を行ったのであり、今回の訴因変更はそれに更に新たな内容を付け加えようとするものである。しかも、今回の訴因変更請求は前記のように極めて広範囲で抽象的な注意義務を課すことを内容とするものである。このような訴因変更を認めることは、いままで被告人が行ってきた防御活動を全く無駄にしかねないものである。

     このような訴因変更を認めることは、被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法三七条一項)を侵害するものであり、刑事訴訟手続における信義誠実の原則(刑訴規則一条二項)に違反するものであって、許されない(浦和地決昭六三・九・二八判時一三〇六‐一四八参照)。

以上