平成四年 第一六号
勾 留 場 所 変 更 の 申 立 書
被告人
一九九二年六月一九日
弁護人
同
同
浦和地方裁判所第一刑事部 御中
申立の趣旨
被告人の勾留場所を浦和少年鑑別所に変更する。
との裁判を求める。
申立の理由
一 被告人の身柄拘束の経過
1 被告人は、一九九一年一一月二三日、浦和警察署の警察官により緊急逮捕され、同月二四日、同警察署留置場に勾留された。
2 しかし、浦和地方裁判所は、弁護人の準抗告を容れて、同月三〇日、被告人の勾留場所を浦和少年鑑別所に変更する旨の決定を行い、被告人は同日浦和少年鑑別所に移監された。
3 被告人は、同年一二月一三日、浦和家庭裁判所に送致されると同時に観護措置決定を受け、引き続き浦和少年鑑別所に身柄を拘束されていた。
4 ところが、一九九二年一月八日、浦和家庭裁判所裁判官は、被告人を検察官に送致する旨の決定をする際に、被告人の勾留場所(少年法四五条四号)を浦和拘置支所に変更する旨の決定をした。
5 右の決定後今日まで被告人は浦和拘置支所に身柄を拘束されている。
二 被告人の勾留場所を少年鑑別所に変更する必要性
1 被告人は、本日満一八歳の誕生日を迎えた少年である。
今までに非行歴・補導歴は全くなく、今回生まれて初めて警察の取調べや身柄拘束を受けたのである。そのうえに、本件被告人は同世代の少年と比較しても、人格の発達が十分とは言えず、とりわけ対人接触の能力において性格上の欠陥がうかがえる。
このような少年を、成人のための拘禁施設である拘置所に拘禁することには、少年の情操保護という観点から問題がある。
2 拘置所における拘禁(社会からの隔離)の度合いは、少年鑑別所とは比較にならないくらいに高いものである。たとえば、両親との面会においても、鑑別所では遮蔽板のない普通の開放的な部屋で談笑できるのであるが、拘置所では遮蔽板のある接見室で行われる。また、拘置所の場合、居房内での姿勢についてまで厳格な規律があり、運動もままならないのである。育ち盛りの少年にとってはこれは極めて重大なことである。
また、拘置所は成人の被拘禁者を相手としており、少年を取り扱うことに不慣れである。それゆえ、少年の情操に対する配慮を欠いた取扱が行われる可能性が高い。一般的に言って、刑務官は少年にとっては厳しすぎる対応をしがちである。本件被告人も、鑑別所と一番違う点は職員の態度であると述べている(別紙陳述録取書参照)。
3 被告人は、拘置所に移監された当初は、拘置所でも十分やって行けると考え(むしろ、拘置所の方が母親との面会手続がスムーズに行われるところから、これを喜んでいた)、これを受け入れたが、時間が経過し拘置所の拘禁の実態を体験するにつれて、これに耐えられないと思うようになってきた。
現在では、睡眠不足と食欲不振を訴え、鑑別所に戻ることを強く希望している。
4 少年法四八条二項は「少年を勾留する場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる」と規定している。この規定は、逆送後の勾留にも当然に適用があるものであり、また、少年法四五条四号の規定(観護措置を勾留とみなす)は、鑑別所の方が拘置所よりも少年の情操保護の点で優れていることから、観護措置の場所である鑑別所を逆送後の原則的な勾留場所とすべきことを定めたものなのである(小林充「少年法一七条一項二号の観護措置決定が同法四五条四号によって勾留と見なされた場合における勾留場所」『新版令状基本問題』二八七(一九八六)、二八九。なお、本件において家裁裁判官は、職権で被告人の勾留場所を拘置所に変更したのであるが、そのようなことが果たして可能なのかどうか、大いに疑問である。)。
いずれにしても、本件少年のような場合こそ、少年法の規定を適用して、少年鑑別所に勾留すべきである。
5 なお、本件被告人に対してはすでに公判が開始されており、被告人の身柄拘束場所が拘置所でなければならない理由は全くないし、また、被告人を少年鑑別所に勾留することよって格別の不都合も生じない。
そうであるとすれば、少年である被告人の情操保護の観点から被告人の身柄を鑑別所に移すことについて何の障害もなく、それを躊躇すべき理由は全くない。
三 被告人・弁護人の移監請求権について
1 刑訴法には、被告人・弁護人に勾留の取消請求権を認めた規定(八七条)はあるが、勾留場所の変更権を定めた規定はない。刑訴規則上は、検察官による移監同意の請求の規定(八〇条)があるのみである。しかし、これらの法や規則の趣旨が、検察官にのみ勾留場所の変更請求権を認め、被告人・弁護人による変更請求権を否定する趣旨であるとすれば、明らかにアンフェアな規定であり、憲法のデュー・プロセス保障条項(三一条)に違反する違憲の立法と言うべきである。
2 被告人・弁護人にも検察官と同様に勾留場所の変更請求権が認められるべきである。この権利のあることを認める判例としては、旭川地決昭六〇・三・一判時一一六―一六一がある。学説としては、岡部泰昌「勾留場所の指定に対する不服の救済方法」判評三二五―五九(一九八五)六三頁、石井吉一「逮捕・勾留の場所―弁護の立場から」『刑事手続(上)』二八一(一九八八)二八三頁がある。
なお、裁判所は、検察官の移監同意の有無にかかわらず、職権で勾留場所の変更ができるという判例や学説は多い(判例としては、旭川地決昭四七・九・八判時七〇〇―一三七、東京地決昭四八・四・一四判時七二二―一一一など。学説としては、金谷利廣「裁判所が職権で移監することの可否」『新版令状基本問題』(一九八六)二七六、小川 夫「職 権による移監の適否」判タ二九六―二四四(一九七三)、田宮裕『刑事訴訟法1』(一九七五)二四三など参照)。
四 よって、弁護人は、「申立の趣旨」記載のとおり被告人の勾留場所を浦和少年鑑別所とする旨の裁判を求める。
付属書類
陳述録取書 一通
以上