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資料集

MIRANDA ASSOCIATION

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高野対国 最高裁第2小法廷2003年9月5日判決:未決被拘禁者と弁護人との間の信書を検閲することを認めている監獄法令は憲法に違反しない(反対意見あり)


平成15年09月05日第二小法廷判決
平成10年(オ)第642号 損害賠償請求事件
上告人 高野隆
被上告人 国

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由

1.上告代理人中山福二の上告理由第二、第三について

在監者の信書の発受に関する制限を定めた監獄法50条及び監獄法施行規則130条の規定が憲法21条,34条,37条3項に違反するものでないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和40年(オ)第1425号同45年9月16日判決・民集24巻10号1410頁,最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日判決・民集37巻5号793頁,最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日判決・民集53巻3号514頁)の趣旨に徴して明らかである。また,上記監獄法令の規定が,市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項,17条に違反すると解することもできない。所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,その前提を欠くか,又は独自の見解に立って若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用することができない。

2.同第四について

所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立ってこれを論難するものにすぎず,採用することができない。
 よって,1の点につき,裁判官梶谷玄,同滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

裁判官梶谷玄,同滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
私たちは,本件で,身体の拘束を受けている被告人(以下「被勾留者」という。)と弁護人との間における信書の授受につき,拘置所長が監獄法50条及び監獄法施行規則130条に基づいてした検閲に違法はないとする多数意見には,賛同することができない。その理由は次のとおりである。

1 監獄法50条は,信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令でこれを定めると規定し,これを受けて,監獄法施行規則130条は,在監者の発受する信書は所長がこれを検閲するものとし,在監者からの発信は封緘をせずにこれを開披して所長に提出させ,受信は所長が開披し検印して押捺すると規定している。
 このような監獄法令の規定は,その文言からみる限り,被勾留者と弁護人との間の信書もそれ以外の信書と区別することなく取り扱うこととし,一律に検閲することを許容しているかのようである。

2(1) 原判決は,被勾留者と弁護人との間で発受する信書を拘置所長が検閲することは,それが逃亡又は罪証隠滅の防止並びに監獄内の規律及び秩序の維持を目的とするものであり,弁護人とのコミュニケーションそのものの制約を目的とするものではなく,かつ,刑訴法39条1項により,拘置所等において立会人なしに口頭により自由に弁護人と接見することが保障されている以上,必要かつ合理的な制限の範囲にとどまるというのである。
 しかしながら,そのように解することは,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)と立会人なくして接見し,又は書類若しくは物の授受をすることができることを定めた刑訴法39条1項の規定の趣旨と整合しないというべきである。監獄法令の上記規定は,少なくとも被勾留者と弁護人等との間の信書の授受に関する限り,憲法が保障する弁護人依頼権に由来する刑訴法の弁護人等の接見に関する規定と整合するように解釈すべきであり,このような解釈は,市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項(b)及び17条の規定の趣旨にも沿うと考える。
 (2) 刑訴法39条1項は,被勾留者に対し,立会人なくして弁護人等と接見する権利を保障しているが,これは,身体を拘束され外界と遮断された被勾留者にとって,弁護人等と相互に自由な意思の疎通を図り,情報の提供や法的助言の伝達等の援助を受けることは,刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであり(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁),その権利が被勾留者によって有効適切に行使されるためには,その内容を拘束者に知られることなく行われることが保障されなければならないとの考えに立つものであって,この規定は,憲法34条の弁護人依頼権の保障に由来する(最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁)。
 (3) もっとも,刑訴法39条2項は,「前項の接見又は授受については」,法令で,被勾留者の「逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる」と定めているが,これは,同条1項が定めた弁護人等との接見交通権が憲法に由来する権利であるとはいえ,刑罰権ないし捜査権の行使に絶対的に優先する性質のものではなく,一定の制約を受けることがあることを規定したものである。しかしながら,同法39条1項は,弁護人等と被勾留者との口頭によるコミュニケーションが秘密裏に行われることについては,その重要性にかんがみ,これを完全に保障している。
 すなわち,同法39条1項が被勾留者は弁護人等と立会人なくして接見することができると規定しているのは,被勾留者とその弁護人等との間において,相互に十分な意思の疎通と情報提供や法的助言の伝達等が,第三者,とりわけ捜査機関,訴追機関及び収容機関等に知られることなく行われることが,弁護人等から有効かつ適切な援助を受ける上で必要不可欠なものであるとの考えに立っている。これは,接見の機会が保障されても,その内容が上記各機関等に知られるようなことがあれば,両者のコミュニケーションが覚知されることによってもたらされる影響を慮ってそれを差し控えるという,いわゆる萎縮効果を生ずることにより,被勾留者は,実質的かつ効果的な弁護人等の援助を受けることができないとの考えに基づく。したがって,この「立会人なくして接見し」とは,接見の内容を上記各機関等が知ることができない状態で接見すること,すなわち接見の内容についての秘密を保障するものである。それゆえ,被勾留者とその弁護人等との間の接見において,仮に被勾留者側からその真情を伝えたり罪証隠滅に関わるものが提示されるなど訴追機関や収容機関側が重大な関心を持つと考えられる内容にわたる可能性がある行為が行われることがあるとしても,そのことを理由にこの秘密交通権自体を制限することは許されない。
 仮に,そのことによって,刑罰権や捜査権の行使に何らかの支障が生じることがあり得るとしても,接見が秘密に行われることの重要性の前に譲歩を求め,万一,その権利の行使に名を借りた違法行為が行われたような場合には,それに対しては刑罰権の行使や懲罰権の発動をし,それを通じて違法行為が抑止されることに期待し,接見交通権が秘密のうちに行使されること自体は,これを完全に保障することにしている。したがって,刑訴法39条2項が規定する「必要な措置」も,そのことを前提にして解釈されなければならない。
 (4) ところで,刑訴法39条2項が「必要な措置」として定めているのは,逃亡を防ぐため必要な措置,罪証隠滅を防ぐため必要な措置,戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置の3つである。
 このうち本件で問題になっている弁護人等との間に送受信される信書に限っていえば,それが「戒護に支障のある物」に当たらないことは,同条1項が「書類又は物」について規定しているのに対し,同条2項が戒護に支障のある「物」についてのみ規定し,戒護に支障のある「書類」(信書もこれに含まれる。)に言及していない文理に照らして,明らかである。
 もっとも,その信書の中に,被勾留者等の逃亡,罪証の隠滅に関わる内容のものが含まれていることがあり得ないわけではない。しかしながら,そのような具体的危険性がうかがわれる等の特段の事情がないにもかかわらず,一般的,抽象的なおそれがあるというだけの理由で,拘置所長が一律に信書を検閲することは,障害防止のために必要かつ合理的制限の範囲を超えるものというべきであって(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁参照),そのようなことは,同条2項も,同条1項が規定する接見交通権の重要性にかんがみ,「必要な措置」として想定していないものといわなければならない。
 そうすると,監獄法50条は,信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令で定めると規定しているものの,その制限は,憲法に由来する刑訴法39条と整合する範囲で定められるべきであるから,監獄法施行規則130条にいう「信書」には,被勾留者と弁護人等との間で発受されるものは含まれないと解すべきであって,そのような信書を拘置所長が前記のような特段の事情がないにもかかわらず検閲することは許されないというべきである。
 (5) ただ,信書については,それが,真実,弁護人等から発信されたものであるか否か,また,封緘された信書の中に弁護人等との信書以外の「物」が混入されていないかどうかを検査する必要性はある。
 しかしながら,弁護人等との間の信書を通じての意思の疎通,助言や情報の提供は,口頭による接見を補完するものであり,かつ,これと一体となって,弁護人依頼権に由来する秘密交通権の保護の対象となると解すべきであるから,弁護人等からの信書であることが明らかである以上,その内容の閲読は許されないというべきである。そして,そのことを担保するためには,開披が必要な場合であっても,それを被勾留者の面前で行うなどの適切な方法が講じられるべきである。
 また,被勾留者が弁護人等に発信する信書についても,弁護人等への信書であるか否か,その中に信書以外の物が含まれていないかどうかの確認以上に,その内容を閲読することは許されないというべきである。
 したがって,監獄法に基づいて所長が行う,弁護人等から受信した信書の開披や,開披したまま提出された被勾留者から弁護人等へ発信する信書に対する検査も,それが弁護人等との間のものであるかどうか,信書以外の物が含まれていないかどうかを調べるためにのみ,その必要の限度では許容されるものの,それ以上にその内容にわたって検閲することは許されないというべきである。

3 ところで,原判決は,刑訴法39条1項は,口頭による自由な接見を保障しているのであって,立会人のないことの保障は口頭による接見に限られ,信書の授受を同条2項による「必要な措置」の対象としても,監獄法の規律及び秩序を維持するために合理的なものとして許容されるとの考えに立つものである。しかしながら,そのような解釈は,被勾留者と弁護人等のコミュニケーションにおける信書のもつ重要性を正しく理解しないものである。なぜならば,弁護人等が被勾留者と接見する場合,受付時間及び接見可能時間についての制限があるだけでなく,接見までの手続にかなりの待ち時間を要することもあって,これのみで,被勾留者との情報の交換,助言の伝達等によるコミュニケーションを十分に行えないことが少なくないのが実情である。また,弁護人等が信書によって被勾留者に求めるものや被勾留者から得たい情報を予め被勾留者に知らせ,被勾留者においてそれらの点について整理しておくことを求めて効果的に接見を行い,その後,接見を通じて十分に行えなかったことを追加して伝達したいと考えたことを信書によって伝えるなど,信書のもつ正確性,固定性など固有の特質を活用することによって,口頭による接見を補完することができる。
 このようなことから,口頭による接見と信書の授受とは,相互の補完によってその目的を達するのであるから,信書の秘密は口頭による接見における秘密とその重要性において区別されるべきものではない。弁護人等との接見を補完し,これと一体をなす信書の内容の検閲を許すことは,接見の一部についての秘密の保障を失わせることにもなるのであって,口頭による自由な接見が保障されていることをもって拘置所長による信書の検閲が必要かつ合理的な制限内のものであるという考えは,弁護人等と被勾留者のコミュニケーションにおいて果たしている信書の役割の重要性を理解せず,接見交通における秘密性の保障を,その一部において奪うことになるに等しいというべきである。

4 このように,弁護人等と被勾留者との間における信書の授受は,被勾留者が弁護人等と意思の疎通を図って情報の提供や助言を受けるために認められた,憲法34条に由来する接見交通権の目的を達する上で極めて重要な手段であるから,信書の検閲が,被勾留者の逃亡又は罪証隠滅の防止並びに監獄内の規律及び秩序の維持を目的とするものであり,弁護人等とのコミュニケーションそのものを制限することを目的とするものでないとしても,そのことは信書の一律の検閲を正当化するものではない。したがって,原判決が,その目的や範囲の正当性を考慮することなく,一律に検閲できるとすることは憲法34条に由来する刑訴法39条1項の趣旨を損なうものといわなければならない。

5 以上の理由により,私たちは,被勾留者の発受する信書が弁護人等との間のものであるかどうか,その中に信書以外の物が含まれているかどうかの範囲を超えて拘置所長が信書を検閲することは,特段の事情のない限り,違法であると解するから,これと異なる見解に基づいてこの点についての上告人の請求を理由がないとした原判決は,審理不尽の結果,法令の適用を誤ったものであって破棄を免れず,本件において行われた検閲の目的及び範囲の正当性について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。

(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井繁男)


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