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刑事司法Q&A

MIRANDA ASSOCIATION

実務で出会うさまざまな疑問や悩みにずばりお答えします。

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質問02:弁護人が作った被告人の供述調書

質問
 接見室で被疑者が「刑事から『認めてしまえばこんな事件は罰金で済む』と言われたので、認めて調書にサインしました」と言うので、すぐに彼女の話しを調書にして署名指印をもらい、確定日付をとりました。公判になって、この供述調書を「自白調書が作成された経緯」「捜査段階から一貫して被告人が刑事の利益約束があったことを供述している事実」という立証趣旨で証拠請求したところ、検察官が取調べに同意しないと言いました。どうしたらよいでしょうか?
回答
1 「厳格な証明」と「自由な証明」

2つの立証趣旨を分けて考えることにします。まず、「自白調書が作成された経緯」という立証趣旨でこの調書が使えるかどうか。

第1に問題になるのは、このような事実の証明のための証拠が法律上の証拠能力の要件を満たしたもの(いわゆる「厳格な証明」)でなければならないかという点です。「証拠能力の基礎事実」については厳格な証明は必要なく、「自由な証明」で足りるというのが通説であるといわれています(光藤景皎『口述刑事訴訟法(中)』(成文堂1992)、117頁)。しかし、自白の任意性に関する事実については、自白はそのまま被告人に不利益な証拠となること、任意性のない自白を証拠から排除することは憲法上の保障であること、この点に関して被告人に反対尋問権の保障を与えないのは不当であることなどから、厳格な証明を必要とするという見解が有力であり(江家義男『刑事証拠法の基礎理論(訂正版)』(有斐閣1957)、9頁)、実務上も厳格な証明が必要であるという前提で運用されることが多いと言われています(石井一正『刑事実務証拠法(第2版)』(判例タイムズ社1996)、79頁)。例えば、浦和地裁平成元年10月3日判決(判タ717‐244)は、取調べの経過を証明するために証拠請求された留置人出し入れ簿等における被疑者の出し入れ時刻の記載については刑訴法323条2号所定の書面として証拠能力があると判示していますが、この判例はこの立場を前提とするものでしょう(最1小判昭58・12・19刑集37‐10‐1753は「訴訟法的な事実」については「自由な証明で足りる」としていますが、事案は電報電話局に対する送付嘱託の適否を判断する資料に関するものです。)。

自白の任意性に関して検察官側からする証明については厳格な証明が必要だが、被告人側からする証明は自由な証明で足りるという立論もあり得なくはありません。しかし、一旦これを認めてしまうと、例えば、弁護側が提出した証拠能力のない文書に対する反証として検察官が提出する証拠について証拠能力を要求するのはフェアではないということになり、結局、自白の任意性に関する証拠調べがルーズに行われることに道を開く危険性がないとは言えません。少なくとも片面的な取り扱いを認める裁判官はまずいないでしょう。しかし、いるかもしれませんし、また、弁護側の証拠に対する反証として検察側が提出することが予想される(証拠能力のない)証拠がないか、あったとしてもダメージの少ないものであることが予想されるならば、「自由な証明で足りる」という主張も検討に値するとは言えます。

ここでは、自白の任意性(取調べの経過)については厳格な証明が必要であるという前提で議論を進めることにします。

 
2 刑訴法322条1項の特信性

まず、ここでは調書に書かれている出来事が真実であることを証明するために書面を利用するわけですから、伝聞例外にあたるかどうかが問題となります。被告人の公判外供述の証拠能力に関する規定は刑訴法322条ですが、本問の調書の記載は自白や不利益事実の承認ではありませんので、同条1項の「特に信用すべき情況の下になされた」と言えるかということが問題となります。

同項の「特に信用すべき情況の下になされた」の意味は、一般に、321条1項3号の同文と同じ意味だといわれています(青柳文雄他『注釈刑事訴訟法(第3巻)』(立花書房1978)、368頁[西原春夫]、松尾浩也監修『条解刑事訴訟法(新版)』(弘文堂1996)、685頁)。これは同項2号後段の「特信性」と異なり、絶対的な特信情況が必要だといわれています。どのような場合がそれに当たるかは一概に言えないでしょうが、出来事から間がない段階での供述であり、虚偽の供述をするとは通常考えられない事情の下でなされた供述はこれに当たる可能性が高いとは言えそうです。判例(いずれも321条1項3号の事例)を見てみると、取引の都度心覚えのために記入したメモ(最3小昭31・3・27刑集10‐3‐387。323条3号の特信性はないが、321条1項3号の特信性はあるとして採用)、すりの現場で提出を命じられたのに応じて書いた被害の模様に関する答申書(札幌高函館支判昭24・7・25判特1-85)、犯行目撃後自ら進んで交番へ赴いた利害関係のない者の警察官調書(大阪高判昭26・2・24判特23‐34)などがあります。これらの判例からすると、本問の供述調書は322条1項で証拠能力が認められそうな気もしますが、これらの判例はいずれも昭和20年代のもので、現在の実務はこの「特信性」の要件を当時よりもかなり厳格に解している――そして、それは正しいことだと思います――と言えますので、注意を要します。

本問の供述調書は、被疑者が警察官から利益約束をされて自白して間もなく聴取したものであり、かつ、確定日付も得ているので、この点は強調すべきでしょう。浦和地裁平成3年11月11日決定は、弁護人が接見のたびに被疑者から聞いた内容を日時を付して具体的に記載し、かつ、確定日付を付した「接見メモ」について「右のような記載の体裁・内容に照らして、高度の信用性があるものと認められる」と言い、このメモの記載「をも併せ考察した結果、各被告人の供述と取調官の供述が抵触する部分については、基本的に各被告人の供述の方が信用性が高く、各取調官の証言は、右各被告人の供述を排斥するだけの証拠価値を有しないと考えるに至ったので、前記のとおり、ほぼ被告人両名の供述に副う事実関係を認定したものである」と説明しています(浦和地決平3・11・11判タ796-272、276)。この事件では、検察官が弁護人の接見メモの取調べに同意していますので、仮に不同意にした場合に、証拠能力が付与されるのかどうか疑問があります。また、接見メモに基づいて直接事実認定をしたのではなく、被告人の供述と捜査官の供述のどちらが信用できるのかの判断資料にしているにすぎませんので、本問とは事例を異にしています。しかし、「高度の信用性があるものと認められる」としている点は、322条の特信性を考えるうえでも参考になります。

そしてさらに、現在の実務では取調べ情況の録音や録画など信頼性の高い証拠の保全措置が全く行なわれておらず、警察官による違法不当な取調べが行なわれても、被告人にはそれを証拠化しておく手段が与えられていません。結局、被告人としては、取調べ後に弁護人にその事情を話す以外に有力な方法がない――それ以上のベスト・エビデンスを得ることは不可能である――のです。この点も強調すべきでしょう。

 
3 刑訴法328条による請求

次に、第2の立証趣旨すなわち「捜査段階から一貫して被告人が刑事の利益約束があったことを供述している事実」を証明するためにこの調書が使えるかを検討しましょう。
この場合は調書に書いてある事実が真実であることを証明するのではなく、単にある時ある場所で被告人がそのような供述をしたという事実を証明するだけですから、伝聞証拠ではないということは言えます。しかし、伝聞証拠ではないと言っただけでは問題は解決しません。

本問の場合は、被告人が捜査段階から一貫してある供述をしていることを示して、被告人の公判廷での供述の証明力を増強するために書証を利用しようとするわけですが、このような「増強証拠」も刑訴法328条の「証明力を争うため」の証拠として証拠能力が認められるのかという問題があります。昭和30年代の判例の中にはこれを肯定したものがあります(東京高判昭31・4・4高刑集9‐3‐249、東京高判昭36・7・18判時293‐28)。しかし、最近の判例の多くは328条によって増強証拠を採用することに否定的です(東京高判昭53・5・17東高刑報29‐5‐81、大阪高判平2・10・9判タ765‐266)。増強証拠は結局のところ法廷外供述による心証形成に対する歯止めがなく、被告人の反対尋問権を画餅にし伝聞法則を換骨奪胎するものであるとして学説はこれに強く反対しています(光藤・前掲、243頁。前掲大阪高裁平成2年判決も「事実上伝聞法則の潜脱を容認するのと等しい」と述べています。)。最近の裁判官が法廷外供述を増強証拠として利用することを328条によって正面から認めることはまずないと思います。

一般的には、同条は、供述者自身が法廷外で自己矛盾の供述をしていたことを示す「弾劾証拠」、あるいは自己矛盾の供述を示されて弾劾された場合に、供述者が同一の供述をしていたことを示す「回復証拠」(弾劾証拠の弾劾)として、公判外供述の利用を認めたものであると理解されており、実務もこれに沿って運用されていると言えます(東京高判昭53・5・17東高特29‐5‐18、東京高判昭54・2・7判時940‐138)。したがって、被告人に対して自己矛盾供述がぶつけられる前の段階で、被告人の公判供述と同一趣旨の公判外供述を証拠として提出するのは難しいのではないかと思われます。

それでは、取調べ警察官が検察側証人として出廷して「私は『認めれば罰金ですむ』などと決して言わなかった」と証言したときに、この警察官証言を弾劾する目的で本問の供述調書を証拠とすることはできるでしょうか。この場合についても、刑訴法328条の「供述の証明力を争うため」の証拠は、供述者自身の公判外供述に限られるかという問題があり、古い判例は非限定説に立っていましたが、最近の判例は限定説のものが多く(東京高判平5・8・24判タ844‐302、東京高判平8・4・11高刑集49‐1-174)、実務の趨勢も限定説に立っているということができます。これを認めてしまうと、増強証拠の採用を認める場合以上に伝聞法則が形骸化してしまうからです。

しかし、これには有力な異説があります。328条の文言が供述者自身の自己矛盾供述に限定しておらず、被告人には憲法上の権利として反対尋問権があるから(憲法37条2項)、検察側が自己矛盾供述以外に同条によって伝聞証拠の使用を認める限り憲法に違反しているが、被告人側からの利用にはこのような制限は働かないという合憲的限定解釈の主張です(田宮裕『刑事訴訟法(新版)』(有斐閣、1996年)、395頁)。上述の限定説をとる最近の判例はいずれも被告人の供述あるいは被告人側証人の供述を弾劾する目的で第三者の法廷外供述を利用することを否定したものであり、検察側証人の証言を弾劾する目的で第三者の法廷外供述を利用することについては何も述べていません。その意味では、この説に依拠してチャレンジする可能性は残されていると言えるでしょう。

 
4 被告人の陳述書としての利用

最後に、問題の供述調書を法廷に顕出させる非常に単純な方法があります。被告人には最終弁論の権利があります(刑訴法293条2項)。この陳述の方法として、被告人があらかじめ陳述書を作成して、それを法廷で朗読したうえ陳述書自体を裁判所に提出するということも実務上しばしば行なわれています。ですから、この最終弁論の際に被告人に「私は捜査段階にも、このことを言っていた。その内容を弁護士さんに調書にしてもらいました。その内容は次のとおりです」と法廷で言わせて、それを朗読させて、陳述書の一部として提出するという方法をとることが考えられます。

現在の実務では、被告人の法廷での陳述に関する限り、証拠となるものとそうでないものとの区別はあいまいです。冒頭意見陳述にしろ、最終弁論にしろ、「被告人が法廷で述べたことは全て証拠として取り扱われる」ということになっています。ですから、この方法をとれば、少なくとも裁判所が「被告人は捜査段階ではそのような供述をしていなかった」と認定することは困難になるはずです。

(弁護士・高野隆)

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