トップページへ戻る
トップページに戻る

ミランダブック

ミランダブックサムネイル 『ミランダの会と弁護活動:被疑者の権利をどう守るのか?』
ミランダブックがネットで購入できます。

刑事司法Q&A

MIRANDA ASSOCIATION

実務で出会うさまざまな疑問や悩みにずばりお答えします。

homeへ戻るエッセイのTOPへ戻る

質問01:自己矛盾の調書を示しての反対尋問

質問
検察側の証人尋問で、証人が警察官調書での供述と異なったことを述べたので、反対尋問中にその調書の該当箇所を朗読して尋問しようとしたら、検察官が「調書を朗読して尋問することは刑訴規則で禁止されている」と言って異議を出しました。この調書は当初検察官が証拠請求したものではなく、私の方から証拠開示を求めて、検察官が裁判官の勧告に応じて開示したものです。どうしたらよろしいでしょうか?
回答

反対尋問では、原則として誘導尋問が許されます(規則199条の4第2項)。その際、警察官調書を朗読して尋問することそれ自体が規則で禁じられているわけではありません。規則は、主尋問について誘導尋問が許される場合に「誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない」と定めています(規則199条の3第4項)。本問の場合は、反対尋問ですので、この規定がそのまま適用にはなりませんが、規則199条の4第3項は反対尋問について「裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる」と規定しており、警察官調書を朗読しての反対尋問が不当であると評価されると、検察官の異議が認められる余地があることになります。

ただ、「調書を朗読して尋問することは刑訴規則で禁止されている」との検察官の異議の理由は、上記のとおり「誤り」と言って良いので、弁護人としてはその点を指摘し、更に警察官調書の朗読が不当な誘導尋問とは言えない理由を説明すべきです。供述調書を朗読して尋問することの危険性は、捜査過程における圧迫感が再現することによって証人が安易に書面に迎合してしまうところにあります。

従って、本問の場合、弁護人としては、そのような危険性を指摘されることのないように尋問すべきでしょう。証人に対し、今この法廷で証言している内容について、警察官から事情を聞かれた時にはどのように供述したのか、その時も今日の法廷で証言した内容と同内容の供述をしているか、といったふうに質問して証人の証言を確定した上で矛盾部分の調書を朗読して尋問するという方法をとれば、証人が調書に迎合する危険性を指摘されることはないでしょう。

問題は、単に「調書を朗読して尋問」するだけでなく、「調書を示して尋問」した場合はどうかです。この場合、検察官が、規則199条の11第1項が「供述を録取した書面を除く」としていることを根拠に異議を出してくる場合があります。

その際、弁護人としてどのように反論するかですが、本条項の供述録取書除外規定は絶対的なものではないとの解釈が一般的です(戸田弘「反対尋問の方法・写の証拠能力」河村澄夫・柏井康夫編『刑事実務ノート』第1巻判例タイムズ社216頁、長岡哲次「書面を示しての尋問」『判例タイムズ』676号6頁)。まず、この点を指摘すべきです。

その上で、規則199条の11第1項の立法趣旨から反論すべきでしょう。この規定は、記憶喚起を根拠に供述調書を示すことによって、証人に対し捜査段階の圧迫感を再現させ、その結果、証人が記憶に従って証言するという意欲を減退させ単に調書に迎合して証言してしまう危険性を防止しようとしたものです。そのような尋問方法は不当な誘導尋問なので禁止されるわけです(規則199条の3第4項)。

ところが、弁護人が反対尋問の過程で、証人の自己矛盾供述たる警察官調書を示して弾劾の尋問をする場合は、上記の状況とは全く違います。弁護人は、自己矛盾供述を法廷に顕出する手法として証人に警察官調書を示してその存在と内容を確認してもらうだけです。記憶喚起の為に警察官調書の内容どおりの証言を求めているわけではありません。調書の内容の真実性を立証しようとしているのではなく、自己矛盾を内容とする調書の存在を立証しようとしているだけです。従って、この場合は、自己矛盾調書について、その成立・同一性・その他これに準ずる事項について尋問しているだけですので、規則199条の10第1項により調書を示すことは当然に許されることになります。また、このような手法は、法328条が自己矛盾供述を証明力を争うための証拠(弾劾証拠)とすることを認めていることからも認められるべきです。

この点に関し、平野龍一教授は「自己矛盾の供述の場合が問題となるはずであるが、規則はこの点について規定を設けていない。ノノ誘導尋問をするには『書面の朗読』をさけなければならないけれども(規則199条の3第4項)、この調書は後に述べるように、328条で弾劾証拠として使うことができるのであるから、口頭の誘導尋問が効果のなかったときに、調書を示して尋問すべきであろう」(平野「刑事訴訟法概説」東京大学出版会138頁)と述べて、調書を示しての尋問が許されとしています。平野教授の説明は、主尋問の場合に誘導尋問が許され場合の例として自己矛盾調書を示しての誘導尋問について述べたものであり、反対尋問の際における弾劾の尋問について意識的に論じたものではありません。しかし、法328条の趣旨から調書を示しての誘導尋問が許されるとしているのですから、弾劾の為に自己矛盾調書の存在を確認するに止まるに過ぎない場合に、調書を示しての尋問が許されるべきは当然というべきでしょう。

以上の点から、弁護人が、反対尋問の際に証人の自己矛盾の警察官調書等を示す場合のテクニックとしては、それが記憶喚起の為の誘導尋問ではなく、弾劾の為に調書を法廷に顕出する手段として、調書の成立・同一性・その他これに準ずる事項について尋問しているのだということが、裁判官において明確に了解できる仕方で行うことが重要になります。

具体的にどうやるかですが、キース・エヴァンス・高野隆訳「弁護のゴールデンルール」(現代人文社)が非常に参考になります。エヴァンスはこう言っています。「彼自身をその矛盾と対面させる前に、いま彼が行っている説明に彼自身を完璧に肩入れさせるべきである。彼に彼自身を梱包させなさい。彼に自分で出口のドアを閉めさせなさい。彼に、事実認定者に向かってこれこそが彼の証言であり、それに疑問の余地はない、と言わせなさい。『もしも』とか『けれども』などは全部取り除きなさい。彼がすり抜けようとするすべての隙間を塞ぎなさい。彼自身に彼を肩入れさせ、自らをピンで留めさせなさい。これを成し遂げた時においてのみ、あなたは矛盾を提示し、彼をそれに対面させるのだ。」

なお、証人が矛盾供述の存在を認めたら、調書と法廷証言とどちらが正しいのかとか、どうして違うことを言うのかとか、矛盾が生じた理由を説明させるような尋問は必要ないし、するべきではありません。エヴァンスは反対尋問においては「なぜ?、どのように?と決して尋ねるな」というゴールデンルールがあると指摘しています。矛盾が明らかになること自体で証人の証言の信用性が低下するわけですから、弁護人としては、証人に対し、わざわざ矛盾を解消させる可能性のある「説明」を求めるべきではないのです。また、そういった尋問をしてしまうと、調書の成立・同一性・その他これに準ずる事項を超えてしまい、調書の内容の真実性を立証しようとしているような尋問となってしまう余地があります。そうすると、規則199条の11第1項違反との検察官の異議に根拠を与えてしまう危険性があるのです。

エヴァンスの言葉を参考に、自分なりにゴールデンルールを実践する尋問のシナリオを工夫してみましょう。
(弁護士・萩原猛)

homeへ戻るページトップへ戻る

HOMEミランダの会とは活動記録記事・論文エッセイ書式集資料集刑事弁護Q&Aフォーラム

Copyright (c) 1999-2003 mirandanokai All Rights Reserved.
当サイトで使用している写真および、テキストの無断転載を禁止します。

※このウェブサイトはInternet Explorerのバージョン4.0以上
あるいはNetscape Navigatorのバージョン7.0以上でご覧下さい。



管理者だけが利用できるページです。
ミランダの会:事務局

ミランダの会ウェブサイト 管理者:高野隆