ミランダの会活動報告8
被疑者からの依頼で署名・押印拒否を実行
季刊刑事弁護12号142頁、現代人文社の許可の下に転載しました。
新潟で八名が入会
六月三〇日、高野隆弁護士が新潟に来訪され、ミランダの会の勉強会が催された。会の理念と同弁護士のお人柄に感銘を受けた新潟の会員八名がミランダの会に入会した(内正会員二名)。
私も正会員として入会させていただいた一人である。
正直に申し上げて、ミランダの会の活動については、当地に必ずしも正確な情報が伝わっておらず、「ああいう会に入ると大変なのじゃないか」という一種の予断があった。
しかし、高野弁護士のお話を聞いて、そのような予断も解消されたと思う。
争いのある刑事弁護を受任して弁護士が苦労するのは、「いかにして不当な供述調書を作成させないか」という点である。従来の手法は、「できるだけこまめに接見に赴き、必要により黙秘を奨める」というやり方である。これは、大変な苦労を伴う。
ミランダの会方式は、このような従来の古典的な手法に伴う大変な苦労をむしろ軽減するものといえよう。弁護士にとっても被疑者にとってもある意味で「楽」である。そして、従来の古典的な手法以上に、正統的なやり方である。――高野弁護士は、このことを我が新潟県弁護士会に伝えてくれたのであった。先に「会員八名」と書いたが、このことへ理解が浸透すれば、もっと会員数が増えるに違いない。
(なお、パソコン通信(ニフティ)仲間の山下幸夫弁護士が会員であることを知ったのも入会動機の一つである。因みに同弁護士のパソ通上の名前(ハンドル)はビートニクスで、「ネットワーク情報フォーラム」内「ネットワークと法律」の議長をしておられる。私の名前はバール・カルトで、「現代思想フォーラム」内「法と思想」の議長をしている)。
事件の概要
七月二四日、当番弁護士の出動要請を受けた。罪名は傷害である。被疑者の言い分の骨子は、以下のとおりである。
(1) 自己の経営する書店の物置に自分の娘の悪口と共に、「○○駅へこい」とのいたずら書きがなされていた。
(2)翌日、○○駅に出向いたところ壁に白紙が貼ってあった。被疑者はその白紙の下に自分の娘の悪口が書いてあるのではないかと思い(実際は、「被害者」の娘の悪口が書いてあった)、その紙を剥がそうとした。
(3)その時、被害者(四二歳の女性)が自分の顔を二、三枚写真撮影した。被害者はなおも撮影しようとしたので、肩のあたりを軽く小突いた。そうしたら、翌日傷害罪で逮捕された。
と、いうものであった。いささか妄想めいた筋書であり、接見当初、私は被疑者の精神疾患を疑ったが、きわめてまともな男であり、その言い分も証拠関係に合致していた。
被疑者の方から「供述調書に署名捺印したくない。先生それでいいですか?」と言うので(この被疑者はある意味経験豊かな人である!)、「それは大変いいアイデアです」とアドバイスのうえ、ミランダ書式セットを提出した。提出に際しては、いささかのトラブルもなく、意外であった。高野弁護士によれば、警察当局は、ミランダの用紙をあたかもバイ菌が付着しているかのごとく扱い、紙片のはじっこをつまんで「せんせぇ、こういうの困りますよ、持って帰って下さいよぉ。」などと弁護士を追い掛けてくるとのことであったが、新潟では未だ「ミランダの会」の「悪名」が伝わっていないらしい。
しかし、「悪名」は、すぐさま流布されるところとなった。
本事件の主任(副検事)と面談したところ、「今回の事件については、本庁の次席検事と綿密に連絡を取りながら処理している。次席もこの事件には注目している。従来の事件以上に、証拠収集に努力しているので、そのつもりで」などと言われた。
事件の経過
本事件のその後の経過は以下のとおりである。
七月二五日 傷害罪にて接見禁止付勾留決定
八月一日 準抗告・接禁一部解除申立・勾留理由開示請求
八月四日 準抗告棄却決定接禁一部解除認容決定(準抗告合議体の裁判官の一人は勾留状発布裁判官の配偶者であった。田舎の裁判所特有の現象かも知れないが、実に問題である)
八月八日 勾留理由開示公判
当然、求釈明事項を用意していった。「被疑者が調書に署名捺印しないことが、〈証拠隠滅のおそれ〉の根拠か?」と釈明したところ、「そのような釈明は一切受け付けない」との返答であった。
なお、被疑者には、あらかじめ意見を原稿化してもらった。「私は、法律の素人であり、何が自分にとって有利になるのか・不利になるのか判断できません。また、供述調書に署名捺印するとどうなるのかも、よく分かりません。ともかく高島弁護士の指導にしたがい、署名捺印に拒否しています」というのが、意見の骨子の一つである。
八月一三日 「暴行罪」で起訴(なぜ、「傷害罪」を落としたのかは、不明である)
八月一四日 保釈請求↓「関係者畏迫のおそれ」の理由で即日却下決定
八月二五日 新発田支部から地方裁判所本庁に回付(支部所属の全裁判官事件関与のため。なお、正検事が立会の予定である)
八月二七日 保釈却下に対し準抗告
八月二八日 準抗告却下
八月二九日 新潟刑務所に移監(移監に至るまで、盗聴器設置の件等につき余罪取調べが行われた)
九月一九日 提出予定証拠について連絡あり(「乙号証は提出予定なし」とのこと)
一〇月三日 第一回公判期日(予定)
被告人は病気のため(歯槽膿漏でご飯が噛めない)現在、勾留執行停止申立を準備中である。
最後に
なお本事件に関し、「マジックペンの落とし方」などについて複数の専門家からアドバイスをいただいた。ニフティの化学フォーラムの皆さんに感謝します。
(高島 章/新潟県弁護士会)
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