司法制度改革推進本部 裁判員制度等意見募集係御中
冤罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会
2004年2月13日
(略称 公正な証拠開示を求める会)
共同代表 秋山賢三 指宿 信 加賀乙彦 鎌田 慧 庭山英雄 増田れい子 灰谷健次郎
事務局長 五十嵐二葉
連絡先〒150-0031東京都渋谷区桜ヶ丘18-6日本会館8階庭山法律事務所
TEL 03-3780-9031 FAX 03-3780-9032
■刑事裁判の充実・迅速化のための方策の概要について(骨格案)についての意見
私たち「冤罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会」は「骨格案」のうち、とくに証拠開示制度について以下のとおり意見を提出します。
記
第一 井上座長案から骨格案への移行における民意の反映の欠如について
私たち冤罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会は、2003年12月8日、同年10月28日付裁判員制度及び刑事手続の充実・迅速化に関する座長ペーパーについて、証拠開示制度を中心に長文の意見を述べた。
また、国民の多くがこの「座長試案」について意見を述べた。しかし、骨格案は、それら国民の意見を結果として全く取り入れていない。政府が法律案の策定に関してパブリックコメントを求めることは、立法への国民の参加のより直接な形態として正しいことである。
しかし、検討会では、集まったパブコメの概要が検討会委員に渡されただけで、それについての討議は全くされなかったという。折角意見を提出した国民の熱意があっても、その意見が全く取り入れられないのであれば、パブリックコメント制度は存在意義を欠くこととなる。
今回のパブリックコメントについては、策定される政府案の会議において、確実に討議素材とされることをまず、要請する。
第二 骨格案の司法改革審議会意見書違反
司法改革審議会意見書(2001年6月12日)は、証拠開示制度について「開示制度の拡充が必要」と明確に述べている。
しかるに骨格案は、以下に詳細に述べるように、開示制度をむしろ実質的に縮小している。司法改革推進本部検討会が、改革審意見書を具体化して法案化するという任務に反して策定した「井上座長試案」をそのままに骨格案が踏襲したためであるが、これは司法改革審議会設置の趣旨に反する違法な措置であり、骨格案をそのまま法案化することは許されない。
かならず司法改革審議会意見書の当該記載に立ち帰り、正しい司法改革の一部としての証拠開示制度を法案化されるよう強く要望する。
第三 近代国家の刑事手続として当然の「リスト開示」
私たち冤罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会が、前記2003年12月8日の意見において、詳細に述べたように、国家の行政作用として捜査官憲が行なう犯罪捜査の中で収集した証拠は公共財であり、それはすべて公正な裁判によって実体的真実を明らかにし、正義を実現するために用いられるべきものである。
そのためには、警察からの全収集証拠リストの検察への送付、そして検察官が収集した証拠と合わせた検察官手持ちの全証拠の被告・弁護側への開示、そのリスト中、被告・弁護側の請求する全証拠の開示が、近代国家の刑事手続として、当然の公正な刑事裁判の一端としての証拠開示制度である。
われわれは、日本国が「普通の国」normal country であるための必要最小限の刑事司法手続を持たなければならない。
「骨格案」の証拠開示部分は、以下に述べるように、開示に異常な制限を設けて、公共財としての警察・検察収集証拠のうち、ごく一部の特殊な証拠以外は非開示とすることを法律によって合法化する制度であって、近代国家としてあまりにもabnormal
な手続であり、これがこのまま法律となって外国に知られることは、日本国の国際的評価にかかわるものと考える。
第四 「骨格案」の証拠開示手続は現行実務より大幅な後退である
現行刑事訴訟法は、証拠開示手続きについて明確な権利化を規定する条項を欠くが、判例と実務の積重ねによって、裁判官の訴訟指揮権による開示命令を背景に、検察官への勧告という形式を取りながら、事実上は無罪証拠の開示を実行させるという実態をもっている。
もし、骨格案が法律化されれば、その条文による限定によって、裁判官が検察官に対して、限定された類型以外の証拠の開示を勧告することが妨げられることとなり、実態としての現行開示制度は、「合法的に」大幅な後退を余儀なくされ、意見書に示された「拡充」に至らないのみか、かえって大幅な後退となるのである。
以下は「骨格案」に対する具体的な反対意見である。
第五「第1 第1 3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示」について
一 骨格案「第1 第1 3 検察官による事件に関する主張と証拠の提示」中
(2)取調べ請求証拠の開示について
1 「イ」について
1.うちカッコ書き (検察官においてその証人が公判廷において証言するものと考える事実が記載されたものに限る)に反対である。
【理由】その証人が公判廷において実際に何を証言するかは、あらかじめ検察官だけが知っているわけではない。もし、全ての証人が常に、検察官が「証言するものと考える」事実のみしか証言しないとすれば、それは検察官が、証言についてなんらかの操作を行なうということが前提であり、刑事裁判が、各証人の、何ものにも拘束されない自由な証言によって事案の真相を明らかにという刑事裁判の基本的目的(刑訴法第一条)に反することとなる。
検察官が、証人に対してなんらかの操作を行なうことがないなら、証人の証言は「検察官においてその証人が公判廷において証言するものと考える事実」以外の事実に及ぶことが当然起こりうるのであり、むしろそれが自然な証言である。
そうである以上、「検察官においてその証人が公判廷において証言するものと考える事実」以外の事実が記載されていることを理由に、開示の対象からはずすことは、その証人が、たとえば被告人の無罪に関する事実や、被告人に有利に働く事実を知っていて、それを検察官の参考人取調に際して供述していた場合に、その事実が公判廷に顕出される機会を永久に奪うことにもなりうる。
刑事裁判が実体的真実を明らかにすることを目的とする以上、このような開示制限はするべきではない。
2.同じく「イ」中証人の供述調書を開示することが相当でないと認める場合には(調書そのものを開示せず)「供述要旨を記載した書面」のみの閲覧をする機会を与えるにとどめる、としていることに反対である。
【理由】 「供述調書を開示することが相当でないと認める」という一般条項的な、まことに漠然とした理由で、証人が述べた事実そのものではなく、おそらく検察官または警察官が作成するであろう「要旨」のみを知らしめても、これは「証拠開示」とは言えない。「証拠の内容についての要旨作成者の見解」にすぎない。
このような制限は付すべきではない。
3.「弁護人に対して」のみ「謄写の機会も与える」すなわち、被告人本人にはいかなる理由があっても謄写の機会を与えないのは反対である。
【理由】 弁護人のない被告人は、記録を謄写できないことになり、防御権を保障されないこととなる。
(3)取調べ請求証拠以外の証拠の開示について
1 「類型」による限定について
「類型」による限定に反対である。
【理由】
(1) まず、ア〜ク はどういう性質の証拠なのか、を客観的に考えてみる必要がある。すると、次の性格が明らかになる。
1. ア証拠物(エ写真、ビデオテープ、録音テープもものにより)以外は、すべて事件後に人為的に、しかもその事件の捜査用(捜査官によりあるいは捜査機関の嘱託等を受けた者によって)作成されたものである。
2. ア証拠物、イ鑑定書、エ写真、ビデオテープ、録音テープの一部、以外は、すべて捜査官が作成したものである
3. 捜査官が捜査にさいして作成する膨大な書類のうち、開示されることになる主な類型、圧倒的な量の証拠は、取調の結果である供述調書=オ検察官が証人請求予定の者の供述調書、カ検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書、キ被告人の供述調書、すなわち捜査官が作成した供述調書である。
4. しかも3はオ検察官が証人請求予定の者の供述調書、カ検察官主張事実に直接関係する参考人の供述調書すなわち(検察官としては供述内容を限定し得ない)「キ被告人」以外は、検察官立証にかかる供述調書、および、その被告人調書の任意性、信用性にかかる、ク身柄拘束中の被疑者の取調べ過程・状況の記録書面のみである。
5. その、被告人調書の任意性、信用性にかかる証拠も、「ク身柄拘束中の被疑者の取調べ過程・状況の記録書面」は、取調を行なう捜査官がみずから作成するものであってみれば、裁判所に任意性、信用性を疑わせるような記述をすすんでするはずはない。従来、被告人調書の任意性、信用性判断に有効であった相対的にこれよりは客観的な証拠ということが出来る 留置人出し入れ簿、留置人動静簿等の捜査関係書類は、この類型に含まれず開示されないことになる。
6. 捜査官が捜査にさいして作成する膨大な書類のうち、「供述調書」ではない客観的な捜査の記録、としては、ウ検証調書、実況見分調書その他これに準ずる証拠 のみである。
現場指紋採取(足跡、血痕、繊維、皮膚、爪の内容物等々の物証採取記録も)報告書、鑑定依頼書、等物証と鑑定書の証明力の判断に必要な捜査書類、押収・捜索にかかる一切の書類、各種照会と回答(例えば足跡の判断について必要な靴底型について、参考人の転居について等さまざまな照会と回答)、捜査が正しくなされたかを検証する捜査報告書等々のすべては、全く開示されないことになる。
7. その他、ア〜クの類型の類型に入らないために、従来開示されていたのに、今後は開示されないことになる証拠は、上記以外にも膨大であるが、いくつかの例をあげれば、以下の通りである。
a 参考人に関する証拠 (アリバイ証人となりうる者等も含み調書を作成されていない者、作成されていても「検察官主張に直接関係しない」とされた者)
b とくに刑事訴訟法323条二及び三号に定める証拠
c b以外で、民間人を含み、捜査官以外の公務員をも含む者が作成した
文書
(松川事件の諏訪メモ、土日事件の自動車教習所伝票等、これまで多くの冤罪事件においてアリバイ証拠となってきたものはこの類型である)
(cについては、骨格案が、これらはすべて「証拠物たる書面」として、類型「ア証拠物」に入るとしている、との見解も成り立ちうるが、もしそうであれば、これが法律になったときに解釈の区々を生じさせないためにも、その旨明記されなければならない)
類型化は、本来、証拠開示にあってはならない限定である。
類型を指定できるほどには明らかでない証拠であって、無罪立証に決定的となる証拠もありうることは言うまでもない。
特に、現在の実務においては、被告人若しくはその親族、会社など勤務先、その他関係先から押収された証拠は、判決確定までは還付されず、検察官が開示に応じない限り、被告人側で自己のための証拠として利用できない。自己の所有物の中に無罪証拠があったことが、判決確定後の還付によって発見できても(そのときは受刑中でそれすらも出来ない可能性が高い)それは再審にしか使えない、というのでは、被告人の不利益はもとより、国家としての訴訟経済にも反するであろう。
以上のように、ア〜クの類型は、従来、実務として裁判に用いられて、実体的真実の発見に欠かすことの出来ない役割を果たしてきた多様な証拠類型の中から、まず類型として、被告・弁護側が開示請求なしうる証拠を限定し、膨大な証拠の中から極く一部のみしか開示対象としないということを意味する。
開示制度の縮減以外の何ものでもない。
開示制度をこのように限定することは正しい刑事裁判の実現に逆行するものであり、反対である。
2「範囲を特定」による限定について
「範囲を特定」による限定に反対である。
理由 被告・弁護側は、その証拠の作成者ではなく、開示を受けていない証拠の内容を「範囲を特定」できるほどに知っているはずもない。「範囲を特定」の条件を付すことは、それだけで、開示請求を不可能にすることである。
3「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」について
「事案の内容及び検察官請求証拠の構造等に照らし」による限定に反対である。
【理由】 「証拠構造」の意味のとり方は不明確であり区々を許す概念である。その上、一般的な「任意性判断の必要」「アリバイ立証」などの理由では許されないこととなり、捜査において捜査側の独占的収集権限によって捜査側の手中に帰した証拠を検察官請求証拠の構造の検証にしか使ってはならないということになり、事案の真相解明のためにするはずである捜査の目的にも反する。
4 「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要」について
「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要」による限定に反対である。
【理由】 上記3に同じ
5 「開示の必要性、生じるおそれのある弊害」について
「開示の必要性、生じるおそれのある弊害」による限定に反対である。
【 理由】
1.「開示の必要性」は、被告・弁護側が判断するものである。開示されたその証拠が結果的に無罪立証に有益であったか否かは、全ての証拠調べを終って、他の全ての証拠との関係で行なわれる実体判断(裁判員制度の下では裁判員の判断も含めた判断)において、はじめて確定するのである。
それまでは、被告・弁護側が「この証拠を見て、必要なら証拠申請しよう」という判断しかありえないのである。それを少なくとも準備手続段階を主とする開示請求の段階で、裁判所や検察官が判断するのでは、被告人の防御権を裁判所や検察官に一部ゆだねることになる。当事者主義をとるわが国の刑事訴訟のあり方そのものに反する、あってはならない制限である。
2. 「開示の弊害」は、これも漠とした一般条項的な制限であり、被告人の防御権をこのような抽象的な概念で制限することは許されない。
これについて、検討会では、法務省が主張する「証拠開示の拡充には、証人威迫、罪障隠滅や関係者の名誉・プライバシーの侵害をともなうおそれがある」という主張が根底にあり、法律の明文としては明らかにしないまま、実質的にはこの内容が想定されているもようである。
「関係者の名誉・プライバシーの侵害をともなう」「おそれ」を言うなら、まず被害状況についての証拠は皆これにあたる。目撃証言にも該当するものがあるだろう。このような「侵害」や「おそれ」を刑事裁判における証拠利用の禁忌にするということになれば、検察官の有罪立証がまずできなくなり、裁判そのものができなくなるはずである。
「証人威迫、罪障隠滅のおそれ」も同じである。
「骨格案」のこの部分がそのまま法律になるということは、これら「おそれ」を有罪立証の場合は無視し、被告側の防御活動のための開示請求では排斥理由にするということになる。およそ当事者対等の原則にもとるものであり、このような開示制度は立法例がない。そんなことで証拠制限をしていたら、およそ刑事裁判は成り立たないのである。
刑事裁判に用いる証拠によって、もし具体的に、証人威迫、罪障隠滅、関係者の名誉・プライバシーの侵害等が発生したならば、個々の具体的場面で、それが刑法にふれる限りで処罰し、民事不法行為に該当する限りで賠償の対象とするほかない。
裁判の公正とは、そのようにして担保されるものであろう。
6 検察官が「相当と認める」もの以外は不開示とする制限について
検察官が「相当と認める」もの以外はまず不開示とする限定に反対である。
【理由】 骨格案は、以上5項目の限定の上に、さらに、検察官が「相当と認める」もの以外は不開示とするという限定を設けている。
証拠開示の必要性は、上記のように、被告人の防御権の根幹であり、被告人側の請求に任せなければ、客観的で公正な裁判は成立しない。検察官がまず、被告側・弁護側の開示請求に「相当・不相当」とする判断をもって干渉することは、その後に裁判官の「裁定」によって修正されることがあるとしても、当事者主義の訴訟構造の否定である。
真に裁判所の判断が必要となるのは、上記5のような弊害が実現した時に、その事後処理の場面であり、従って当該刑事事件の審理を担当する裁判所ではない別の裁判所が行なうべきであり、そのような制度でなければ当事者に公平な開示制度とは言い得ない。
第六「第1 5 争点に関連する証拠開示」について
1. 被告・弁護側が、3により開示された証拠以外の証拠について、検察官に対して、「開示を求める証拠の類型及びその範囲並びに当該証拠と被告人又は弁護人の主張との関連性その他被告人の防御の準備のために開示が必要である理由を明らかにして」、開示の請求をしなければならないとすることに反対である。
【理由】 被告人側でこのような詳細な説明をしなければ開示請求ができないとすることは、防御権の侵害に通じる。
従来、被告人側の立証計画を知った検察官が、無罪証言をする予定であった証人を呼び出して取調べ、無罪証言を事実上取りやめさせるなどの事例は多数ある。
開示が必要な理由は、「防御のため必要」であれば、それ以上詳細に検察官に知らしめては、防御の妨害になる虞があり、必要ないのみか有害である。
2. 被告・弁護側から開示請求があった場合、検察官が「開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類及び程度などを考慮して、相当と認めるときに」のみ「当該証拠を開示しなければならないものとする」ことに反対である。
【理由】 「弊害」については前記のとおり。その「種類及び程度などを考慮して、相当と認める」か否かの判断を対立当事者である検察官がするべきではない。後に裁判所の命令と即時抗告の方法があるとしても、検察官の判断が一次的に置かれるのは当事者主義に反する。
また、今回導入された裁判の迅速化により、起訴から二年と限定された審理期間がこのようなやり取りで空転していては、迅速化が、まず入り口で頓挫することになる。また、立証はまず検察側が行なうところから、二年の限定期間は、その後のほうで立証をすることになる被告人側に、結局は時間不足をもたらすことになり、被告人のために十分な審理を保障しない実態をもたらすことが懸念される。
公判開始の時点で、十分な証拠開示がすんでいてこそ、裁判は効率よく、迅速に行なわれるのであり、先進国の法制度および国際的基準は、その故にこそ、十分な証拠開示制度を正しい司法制度に不可決な要件としている。
わが国が今回の司法改革において、この国際的常識にもとる制度設計をすることは、してはならないことなのである。
第七「第1 6 更なる争点整理と証拠開示」について
「検察官、被告人又は弁護人に、更なる主張及び開示すべき証拠がある場合
には、3ないし5と同様の手続を繰り返すものとする」のは反対である。
【理由】 上記同様であり、起訴から二年と限定された審理期間がこのようなやり取りで空転していては、結局、検察側の後に立証をする当事者である被告側の時間不足を招くことになる。開示請求のあった証拠を全て開示すれば、このような空転は起こりえない。
第八「第1 7 証拠開示に関する裁定」について
1 「(1) 開示方法の指定」および「(2) 開示命令」について
裁判官が「特定の開示の時期、方法を指定する決定をすることができる」とすることに反対である。
【理由】 前記のとおり、開示によってもしも刑事法にふれる行為もしくは民事損害賠償の対象となる結果が生じることがあれば、それらに対しては通常の処罰ないしは賠償請求で臨めばよく、その虞れを理由に、開示方法や時期の指定をして、公判手続を遅らせ、または被告人の防御権を侵害することがあってはならない。
2 「(4)4 証拠の標目の提出命令」について
1. ア の検察官が保管する証拠につき裁判所が提出を命じる一覧表を「裁判所の指定する類型及び範囲に」限定することに反対である。
【理由】 裁判所自体が、検察官手持ち証拠の全容を知らないままに、開示についての裁定をし、公判を行うことを制度化するものであって、実体的真実主義に反する。このように、裁判所が、検察官手持ち証拠の全容について知ることを制限する制度とすることが、職権主義を後退させて、当事者主義を徹底させるという制度趣旨として選択されたのであるのなら、その限りではよいかもしれない。
しかし、そうであれば裁判所は関与しない、両当事者間の問題として、被告側には検察官手持ち証拠の全リストを開示しなければならない。
2. イ の該当する「証拠の標目を記載した一覧表を被告人及び弁護人には開示しない」とすることに反対である。
【理由】 そもそも、検察官手持ち証拠のリストが提示されなければ、被告人・弁護側において開示を求める証拠を特定することすら出来ないわけであって、開示制度の制度設計において、検察官が保管する全証拠(これは誤りなく裁判を行なうために必要な公共財以外の何ものでもないのである)の標目を記載した一覧表の被告・弁護側への開示が、不可欠であり、当然の開示制度である。
裁判所には一覧表を提出させながら、被告・弁護側にはリストの(しかも骨格案では一部の)内容すらを知らせないとは、およそ開示制度の名に値するものではない。
第九「第1 9 開示された証拠の目的外使用の禁止等」について
開示された証拠を、被告人及び弁護人には(検察官には同様の禁止や罰則がない)開示された証拠の「一部」たりとも、「当該被告事件の審理の準備以外の目的で使用してはならない」とすることに反対する。まして罰則まで付すということは到底許しがたい。
【理由】 被告人及び弁護人が、開示証拠を「当該被告事件の審理の準備」以外に用いなければならないことは多数ある。例えばその事件が誣告事件であった場合の誣告罪の告訴、損害賠償請求その他の民事事件は一般的であるが、事件の特殊性に応じたさまざまな法的アクションを行なわなければ、「当該被告事件」において冤罪を晴らすこともできない場合はいくらでもある。
検察官は被告側から開示された証拠について、証人を拘引して、証言を拒否させたり、証言内容を変えさせようとすることは実態としてままあるのである。このような検察側の違法行為、外国であれば裁判所侮辱罪に該当する行為に対して、この骨格案は、なんらこの9のような禁止や罰則付していないのに反して、「被告人又は弁護人」のみがこれを「義務」とされ、違反したとされれば処罰をも科せられるという制度では、刑事訴訟法の当事者の地位の対等、公平の原則にも反する。
9のような規定はあってはならない。
結語
以上述べてきたように、「骨格案」の少なくとも開示部分は、およそ近代刑事手続法の原理に反するものであり、法制審議会意見書の趣旨にも反して、現行の開示制度の縮小、制限の立法化である。
既に当会が井上議長試案に対するパブコメ、あるいはそれに先立つ「要綱案」などで指摘してきたように、1990年代以降先進各国で進行している証拠開示法制の展開と比べてあまりにも被告人側に限定的で、当事者間の不公平をもたらす内容となっている。
正しい司法改革に反するものであり、到底容認することができないものである。
政府はこの骨格案をそのまま法案化することをやめ、根本的に見直しを行なって、国際的に異常であるとのそしりを受けない立法をするべきである。
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