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エッセイ

MIRANDA ASSOCIATION

刑事弁護の体験談、刑事司法改革について意見

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「被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」に関する意見 --- 弁護士 高野隆

2003年1月31日

-----これは司法制度改革推進本部の「被疑者・被告人の公的弁護の整備に関する意見募集」に応募して投稿したものである。-----

公的弁護を支えるインフラに関して提言したい。

毎年10数万人の人が身柄拘束を受けているが、その殆どは弁護人の援助を受けていない。日本国憲法34条は「何人も***直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない」として、身体拘束を受ける個人が直ちに弁護人による援助を受ける権利を保障していることに照らせば、現状は甚だ憂慮すべき事態ではないかと思える。日弁連や各弁護士会は当番弁護士制度を設けて、身体拘束を受けた人に、要請があれば1回無料の接見を実施しているが、被拘禁者全員がこの制度の恩恵を受けているわけではない。また、1度接見しても引き続き弁護人として活動する例はあまり多くなく、この制度が被拘禁者の要望に十分答えているとは言いがたい。

その原因は、弁護士の数が少なく、捜査段階の弁護活動を専門的に行なう弁護士の数が限られていることにあることは明らかである。この意味で、刑事専門の事務所を立ち上げて、そこに公的資金を導入することは必要なことであるし、そのようなシステムを通じて刑事専門弁護士の数を増やすことも必要なことである。しかし、専門弁護士の数や費用負担の問題のほかに見過ごされている問題がある。それは、弁護士の活動を支えるスタッフの活用という問題である。

現在捜査段階の弁護活動のうちもっとも時間を取られるのは被疑者への接見である。被疑者が留置されている場所は各警察署の留置場である場合が殆どであり、そこへの往復だけで半日を要するという場合も決して珍しくない。そのために、このような仕事は敬遠されがちなのである。私の提案は、この接見業務を、弁護士本人しかできないという現在のシステムを改め、弁護士の指導監督のもとで、その補助者にも行なえるようにするというものである。


アメリカでは、ロースクールの学生やパラリーガルと立会人なしに面会することは被拘禁者の「裁判所へのアクセス権」の一つとして憲法上の権利とされており、これを制限する拘禁施設の規則は違憲とされている(Procunier v. Martinez, 416 U.S. 396 (1974))。学生やパラリーガルによる面会(lawyer-client interview)を禁じると、弁護士の移動時間に対する報酬を支払えない被拘禁者は弁護士の援助を受けられなくなる;弁護士は、被拘禁者の法律問題を処理する時間を、移動のために無駄に費やすことになる;学生やパラリーガルとの面会を認めれば弁護士の援助を受けるためのコストを削減することになる;したがって、学生やパラリーガルとの面会を禁止する規則は、無資力の被拘禁者から弁護士の援助を受ける権利を奪うことになる、というのがその理由である(Martinez, id., at 420)。イギリスでも、ソリシターの事務職員は単独で被疑者と接見できるようである。

日本では、弁護士の事務員は、単独でも弁護士同席でも立会人なしの接見はできないし、接見禁止決定があると事務員は差し入れの手続すら出来ない。司法修習生は指導担当弁護士が同席する限り、立会人なしの接見ができるが、単独での接見はできない(試みた人はいない)。特別弁護人制度は起訴前の被疑者には適用されないというのが判例であり(最3小決平5・10・19刑集47-8-67)、公訴提起前には弁護士以外の者が特別弁護人として立会人なしの接見をすることもできない。

しかし、憲法34条が保障する被拘禁者の「弁護人依頼権」は、弁護人による実質的な弁護活動を保障したものであり(最大判平11・3・24民集53−3−514)、弁護人の実質的な弁護活動のためには、それを補助する者による被拘禁者との秘密交通が保障されてしかるべきである。刑訴法39条1項の「弁護人」にはこれらの者が含まれるという解釈も十分に可能である。


弁護人の補助者は、弁護人の指導監督に服し、その指示によって被疑者と立会人なしの接見を行い、被疑者に対してその権利を説明し、その後の手続の流れを説明したうえ、被疑者から事情聴取してその内容を弁護人に報告するのである。弁護人は、補助者の報告に基づいて専門的な判断を行ない、必要な手続きや申立を準備する。このような分業を行うことによって、弁護人の援助の密度はより濃いものになるであろう。そして、先に示したアメリカ連邦最高裁判例が指摘するように、弁護活動のコストが削減され、資力の乏しい人でも弁護人の援助を受けられるようになるのである。

さらに、司法制度改革審議会は、法曹養成を担う中核的な教育機関として法科大学院の設置を提言し、かつ、その教育内容の一環として「リーガル・クリニック」を例示している。これは法学生が現実の事件を弁護士の指導監督のもとで担当することによって弁護技術を習得させようとするものである。このリーガル・クリニックにおける教育を充実したものにするためには、学生に弁護士の仕事の一部を現実に担当させることが是非とも必要である。アメリカでは1969年にABAが学生実務に関するモデル・ルールを制定し、これが全国の裁判所規則や制定法として採用された。現在アメリカのロースクールが設置するリーガル・クリニックはかの国の公的弁護制度を支える重要な柱となっている。学生は、実力のある弁護士の指導のもとで一つの事件のために精力を傾けるので、一般の弁護士よりも質の高い弁護活動を提供しているというのが一般的な評価である。

わが国においても、このような方向が検討されるべきである。法科大学院の学生が弁護士の指導のもとで、接見や法廷活動をすることは、学生にとって多大の教育効果をあげるであろうし、また、私的な方法で弁護士を依頼することができない人々に弁護人の援助を与える機会にもなるであろう。
公的弁護活動の担い手として「公設弁護人事務所」のような施設を作ることも必要であるが、制度を効率的に運用しできるだけ多くの人に弁護人の援助を提供するためにも、事務所スタッフによる接見業務は検討されなければならいと思う。


もちろん、弁護士に代わってその補助者として接見業務をする職員や学生の質の確保は重要なことである。そのためには、各弁護士会や公設弁護人事務所が接見業務を行なう事務職員の研修を行なうとか、研修終了の認定証を発行するなどのシステムが考えられるし、法科大学院のクリニックについては、ABAの学生実務規則のようなルールを作ってその厳格な運用――とりわけ指導担当弁護士による指導監督――を確保する必要がある。しかし、それらの整備にはさほどの困難はない。

わが国の刑事司法が適正に運用され国民からの信頼を勝ち得るためには、身体拘束を受けた人に対する弁護人の援助は欠かせないものである。それをできるだけ早く効率的に実現するためには、弁護人の補助スタッフの活用という発想が必要である。この点はいままであまり論じられていなかったので、諸賢の注意を喚起するために提案した次第である。

以上


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