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エッセイ

MIRANDA ASSOCIATION

刑事弁護の体験談、刑事司法改革について意見

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「刑事弁護ガイドライン(仮称)」Q&A

日弁連刑事弁護センター/2000年8月


Qestions


(1)ガイドライン全国討議に至る経過

1. ガイドラインの検討はどのような経緯で開始されたのか
2. 「ガイドライン研究会」での検討はどのように進められたのか
3. 討議資料とされている「研究会第二次案」はどのように作成されたのか
4. 本年6月の刑事弁護センター全体会議では何が確認されたのか

(2)ガイドラインの目的−弁護活動の水準確保の必要性

1. ガイドライン作成は何を目的とするものなのか
2. 刑事弁護の現状をいかに評価するか

(3)ガイドラインの必要性

1. 弁護活動の水準確保は個々の弁護士の課題ではないのか
2. 弁護水準確保のために何故「ガイドライン」(指針)が必要と考えるか
3. ガイドラインはいかなる性格を持つものとして検討されているのか

(4)国費による被疑者弁護制度をめぐる動向との関係

1. 「国費による被疑者弁護制度」をめぐる状況はどうなっているのか
2. 「国費による被疑者弁護制度」とガイドラインの関係は

(5)討議資料条文案(研究会第二次案)の内容について

1. 討議資料条文案(研究会第二次案)は、どのような性格のものとして位置づけられているのか
2. 討議資料条文案(研究会第二次案)のいくつかの条文の提案趣旨について

Answers


(1)ガイドライン全国討議に至る経過


1.ガイドラインの検討はどのような経緯で開始されたのか

ガイドラインの検討は、弁護水準向上のための日弁連・弁護士会の取組みのなかから提起されてきたものです。

弁護水準向上に向けた努力の一つは、国選弁護活動の改善のための取組みでした。そのなかで、日弁連国選弁護に関する委員会は、95年7月に「国選弁護活動の充実・改善のための方策について」を発表しましたが、そこでは「残念ながら、わずかとはいえ、国選弁護人として熱心さを欠き、その職務に著しく不適切な行為がある事例」の存在が指摘され、現状改善のための方策として、「受任後速やかな接見」「記録閲覧」等が「最低限度の活動基準」として示されました。

その後、国費による被疑者弁護制度実現への気運が高まる中で開催された97年9月第6回国選弁護シンポジウムの基調報告書は、「被疑者・被告人が自らの意思によって自らの費用で選任したのではない『公的弁護』の場合、その報酬は国民の税金から支払われるのであるから、国民に対する責務としてもその質がきびしく問われることになる」「実質的に考えても被疑者段階で弁護人が選任されていることが自白の任意性、信用性を肯認する具に利用される可能性があり、おざなりの弁護活動は被疑者に対して弁護人が選任されていない場合よりもかえって致命的な不利益を被疑者にもたらしかねない」と指摘し、整備すべき課題として「弁護の内容と質の向上」を挙げ、アメリカの全米法曹協会(ABA)、全米法律扶助弁護人協会(NLADA)のガイドライン等を参考にした被疑者弁護のマニュアル策定を提起しました。
 また、97年10月理事会決定された「被疑者国選弁護制度試案」も、「弁護の内容・質の向上」を課題とし、「不適切弁護」の存在を指摘し「日弁連としては、会内外の指摘や批判を受け止めて、弁護の内容・質の向上のための方策を十分に検討しなければならない」と述べ、具体的方策の第一として「被疑者弁護のマニュアル、活動指針の作成」を提起しました。

このように、弁護水準向上へ向けた取組みの中で、その方策の一つとして、アメリカにおける各法律家団体のガイドライン等をも参考にした「指針」作成が検討課題として提起されてきたのです。


2.「ガイドライン研究会」での検討はどのように進められたのか

「ガイドライン」についての具体的な検討が始まったのは、98年に入ってからでした。すなわち、同年3月に京都で開催された日弁連刑事弁護センター第8回刑事弁護全国経験交流会で「ガイドライン」の必要性が議論され、具体的討議の続行が確認されたのを受け、同年10月からセンター刑事弁護実務研究小委員会内に「刑事弁護ガイドライン研究会」が設置されました。

同研究会は、大阪弁護士会の刑事弁護委員会委員を中心に構成されましたが、参加は日弁連刑事弁護センター委員全員に呼びかけられ、東京・岡山・滋賀からも参加を得て、合宿2回を含む18回の研究会が重ねられました。


3.討議資料とされている「研究会第二次案」はどのように作成されたのか

本年2月7日の日弁連刑事弁護センター全体会議において、「ガイドライン研究会」での草稿を取りまとめたものが「研究会第一次案」として配付されました。これは、「研究会」の検討状況を明らかにするために、参考資料として委員に配布されたものでした。この「研究会第一次案」について寄せられた意見を受け、5月上旬までの5回の会合で検討がなされ、相当の修正を加えて作成されたのが「研究会第二次案」です。

「第二次案」作成においては、「第一次案」が全面的に見直され、再検討が行われました。主な再検討点の第1は、第一次案6条「憲法及び刑事訴訟法の理念に従い、刑事司法が健全に運営されるように努めなければならない」、7条「法令を遵守しなければならない」、16条「接見禁止決定の趣旨を無効ならしめてはならない」等の規定についての見直しでした。第一次案の意図としては、これらは「可能な弁護活動の範囲」を明確にすることで積極的弁護活動を広げようとするものでした(例えば、16条は、「接見禁止決定の趣旨は被疑者と一般人との間の情報伝達を遮断するもの」との見解を排し、接見禁止決定がなされている場合でも、被疑者と第三者との間の情報伝達を伴う弁護活動が一定範囲で許容されることを明らかにしようとする問題意識からの提案でした)。しかし、上記各条文の表現が必ずしも適切でなかったことは否定できず、そこで、第二次案策定においては、第一次案全条文につき再検討を加え、国家権力による介入の口実を与えるおそれのある条文は削除・修正されることになりました。

第2に、第二次案では、弁護人の任務の基本は「被疑者・被告人の利益擁護」であることを出発点とし、被疑者・被告人との関係において弁護士が何をなさなければならないのか、何をなすべきなのかとの視点(誠実義務の具体化という視点)から、全条文の見直し・整理が行われました。


4.本年6月の刑事弁護センター全体会議では何が確認されたのか

本年6月9〜10日に開催された日弁連刑事弁護センター全体会議では、「被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実効的に保障するため刑事弁護ガイドライン(仮称)を策定する。なお、その内容は、国家権力による介入の口実を与えるものであってはならず、刑事弁護を発展させるものでなければならない」との決議が、賛成58・反対2・保留5で可決されました。(討議経過については、日弁連刑事弁護センターニュース23号=日弁連新聞本年7月1日号折り込み参照。)

この決議に際しては、(1)同決議は日弁連執行部からの全国意見照会を要請するにあたり最低限必要な態度決定であること、(2)「ガイドライン」の具体的内容、例えばミニマムスタンダードとして考えるか否かも含め今後の検討課題であること、(3)決議が採択されれば、センターとしてはガイドラインが必要と判断したことになるが、全国討議においては策定の要否、及び要するとした場合のあるべき内容の双方につき意見を求めること、(4)「研究会第二次案」も一資料として送付することにするが、これを「たたき台」とする趣旨ではなく、討議のための参考資料としてであることが確認されました。


(2)ガイドラインの目的−弁護活動の水準確保の必要性


1.ガイドライン作成は何を目的とするものなのか

前記刑事弁護センター全体会議決議が確認したように、ガイドライン策定の目的は、弁護活動の水準を高め、「被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利」の実効的保障を前進させることにあります。

これは、弁護人の援助を受ける権利を実質的に保障していると解される憲法34条前段、「資格を有する弁護人」=「適格な」弁護人による弁護を保障する憲法37条3項、また「実効的な法的援助」のために「犯罪の性質に見合う経験と能力を有する弁護士を付される権利」を定めた「弁護士の役割に関する基本原則」(90年12月国連総会決議)6項等の規定からも要請されているといえます。


2.刑事弁護の現状をいかに評価するか

刑事手続の現状は、憲法や刑訴法の理念から著しく乖離しており、自白中心主義の刑事司法システムの改革・身体拘束手続の適正化・証拠開示の法制化等の改革が急務となっていることは、本年7月14日の日弁連「刑事司法改革に向けての提言」でも詳細に述べられているとおりです。

日弁連は、こうした刑事司法改革の提起と同時に、特に89年松江人権大会以降、刑事弁護の充実を重視し、当番弁護士制度により捜査段階初期からの弁護人の援助の機会を増加させるとともに捜査弁護活動の充実をめざしてきました。また、前記のとおり国選弁護活動改善の努力も続けてきました。こうした取組みは貴重な成果をあげていますが、なお克服すべき問題点と課題があることは否定できません。

第1に、主に国選弁護において、いわゆる「手抜き弁護」「不適切弁護」といわざるをえない事例が存在していることです。残念ながら、現在でも、「一回も接見を行わない」「記録を全く閲覧しない」「被告人が否認しているのに公訴事実を争わない」等の弁護活動が指摘され続けています。もちろん、こうした事例は一部ではありますが、かといって無視できるほど希有とはいえず、また、たとえ一部であっても被疑者・被告人の利益が大きく損なわれていることを看過することはできません。

第2に、こうした一部事例を離れても、「被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利の実効的保障」という視点から十分な弁護が広く行われていると言い切れるかも問題です。この点、研究者からは、「現在の自白中心捜査の変革に繋がる積極的・変革型弁護」と「調書裁判という現状を固定化する消極的・停滞型弁護」に二極分化しつつあるとの指摘もありますし、また99年に実施された調査(研究者による当番弁護士登録者100名に対する聞き取り調査)でも、例えば勾留状謄本請求を行っているとした弁護士は100名中20名(うち、必ず請求するとした者は5名)にとどまったと報告されています。

第3に、弁護活動の水準向上の課題は、国費による被疑者弁護制度実現を展望すると一層重要となります。日弁連が要求を続け、当番弁護士制度の実践によって実現可能性を切り拓いてきた「国費による被疑者弁護制度」は、いよいよ実現が見通せる情勢となっていますが、同制度実現後は、相当額の公的資金=国民の税金が新たに刑事弁護に支出されることになるのであって、「弁護の質」はより強い関心を持って問われることになるからです。


(3)ガイドラインの必要性


1.弁護活動の水準確保は個々の弁護士の課題ではないのか

弁護活動の水準向上は、いうまでもなく一人一人の弁護士が自ら担わなければならない課題です。
 同時に、弁護活動の水準向上については、弁護士会・日弁連も重要な責務を負っているといえます。すなわち、憲法37条3項は「適格な」弁護の保障を国家に義務づけています。しかし、国家と対立しても被疑者・被告人の防御権を擁護することを任務とする刑事弁護においては「弁護の独立」の確保が不可欠であり、「弁護の独立」を守りつつ「適格な」弁護が確保されるためには、国家ではなく、弁護士会・日弁連が、弁護活動水準向上のための組織的な役割を果たすことが求められているというべきだからです。弁護士会・日弁連が当番弁護士制度を創設し、その充実と発展に努めてきたのも、こうした責務を実践してきたものです。


2.弁護水準確保のために何故「ガイドライン」(指針)が必要と考えるか

弁護士会・日弁連は、弁護活動の水準を高める方策として、@新入会員・当番弁護士名簿新規登録会員等に対する研修、A経験交流会・実務研究会・講演会等の開催、B司法修習生に対する実務修習充実の工夫、C弁護事例集発行、D当番弁護士活動マニュアル等の配布等の努力を行ってきています。
 こうした取組みの更なる充実・工夫は今後さらに重要となりますが、これらに加え「ガイドライン」策定が有効かつ必要な方策と考えるのは、次のような視点からです。

1)(ミニマムスタンダードの視点から)

「手抜き弁護」「不適切弁護」事例を解消するための方策の一つとして、刑事弁護のミニマムスタンダードが示されることが有効と考えられます。
 弁護士の職務のあり方については「弁護士倫理」が策定されていますが、刑事弁護に焦点を当てた規定としては9条(刑事弁護の心構え)の他は国選弁護に関する2か条(報酬等受領を禁止した38条と私選への切替の働きかけを禁止した39条)が存在するだけです。これに対し、より具体的な弁護活動のレベルにおいて、刑事弁護人が被疑者・被告人に対する義務としてなすべきミニマムスタンダードが示される必要があると考えられるのです。

2)(標準的弁護活動指針の視点から)

弁護活動の水準を高めていくには、ミニマムスタンダードに達しない弁護活動を是正していくにとどまらず、標準的な弁護活動の指針を示し、その励行を求めていくことが必要との視点です。
 こうした標準的弁護活動指針が策定され、かつ多数の弁護士により共有され実践されていくならば、全体としての弁護水準の向上に資することとなると思われます。また、被疑者・被告人に対し提供される標準的弁護活動の内容を示すことは、「国費による被疑者弁護制度」の意味について国民の理解を得るうえでも意義を有すると考えられます。

3) (弁護士倫理解釈の明確化の視点から)

前記のとおり、「弁護士倫理」には刑事弁護に焦点を当てた規定が少ないのですが、さらに注意すべきは、主に民事弁護を想定して置かれたと思われる規定が「刑事弁護活動批判」に援用されていることです。

例えば、弁護士倫理7条は、「弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならない」と定めますが、これを根拠とした「被疑者に黙秘権行使を助言する弁護活動」に対する批判が現れています。しかし、黙秘権行使の助言や勧告が真実解明の妨げになるとの観点から問題とされる余地はないというべきです。そうだとすると、この点を明確にし、不当な批判の口実を与えないためには、刑事弁護の性格・役割に則して弁護士倫理7条の規定を明確化し、解釈に限定を加えることが必要ということになります。(例えば、討議資料条文案12条3項〔甲案及び乙案〕は、刑事弁護の性格・役割に即して弁護士倫理7条を具体化することを提案するものであり、そのことによって、被疑者・被告人の防御権保障のための積極的弁護活動を広げようとするものです。)


3 ガイドラインはいかなる性格を持つものとして検討されているのか

ガイドラインは、単なる「弁護マニュアル」を提供しようとするものではなく、例えば、弁護士会が弁護人に対して行う助言、さらに国選弁護人登録に関する措置に際し参照されること等が想定されますが、その性格については、今後の検討に委ねられています。
 なお、前記2で述べた「ガイドラインの必要性についての視点」のうち、3)「弁護士倫理解釈の明確化の視点」からは、「弁護士倫理」と同等の規範性を持たせることが必要であるとの意見も出されています。


(4)国費による被疑者弁護制度をめぐる動向との関係


1.国費による被疑者弁護制度をめぐる状況はどうなっているのか

97年10月の「被疑者国選弁護制度試案」理事会承認後の日弁連の働きかけにより、法務省・最高裁との間で、「刑事被疑者弁護に関する意見交換会」が設置されました。「意見交換会」は98年8月から概ね月一回開催され、被疑者弁護の役割等についての討議、英米独仏4か国の刑事弁護制度についての調査研究等が重ねられました。そして、99年10月12日の第12回意見交換会において、法務省と最高裁は、当番弁護士制度の実績をふまえ、国費による被疑者弁護制度の現実的な検討の必要性を認めるに至りました。また、司法制度改革審議会においても、国費による被疑者弁護制度実現の必要性が肯定されています。
「国費による被疑者弁護制度」の具体的導入方式について、日弁連は次の三つの案を示しています。

(1)「被疑者国選弁護制度試案」

まず、前述の97年10月に理事会承認を経た「被疑者国選弁護制度試案」ですが、これは、裁判所が弁護人選任及び報酬決定・支給等の運営全般を行う構想です。選任要件としては、「身体拘束された全ての被疑者」に「国選弁護人請求権」を認めることを基本とし、一定の重大事件等については被疑者の請求にかからしめない必要的選任制度が提案されています。

(2)「公的刑事扶助(被疑者弁護)要綱案」

日弁連が98年11月に発表した「司法改革ビジョン」では、上記「国選試案」策定後の国会における情勢の変化を踏まえて、法律扶助による公的被疑者弁護制度をも射程に入れることとし、「国費による被疑者弁護制度」との表現が用いられました。これを受けて、日弁連刑事弁護センターにおいて、法律扶助方式による公的被疑者弁護制度を検討し、99年8月に「公的刑事扶助(被疑者弁護)要綱案」を策定しました。これは、法律扶助協会を運営主体として、弁護人選任は被疑者と弁護人間の委任契約によるものとし、法律扶助協会は公的資金を受入て、弁護費用援助決定・支給という運営を行う構想です。

(3)「国費による被疑者(及び被告人)弁護制度の新たな構想」

その後、「国選試案」については、捜査段階の弁護活動につき裁判所が報酬決定を行う制度が現実的かという問題(裁判所は充分に弁護活動を把握できないという問題)が指摘され、「扶助要綱案」については、重大事件等における必要的選任制度を設けることが困難ではないか、あるいは多額の公的資金が導入される制度に裁判所等が全く関与しないとすることが妥当かとの問題が指摘されました。これら問題点を解消しうるものとして、運営主体と弁護人選任機関とを別にするという方法が検討され、99年11月の日弁連刑事弁護センター全体会議で、「国選試案」と「公的扶助要綱案」を統合した「国費による被疑者(及び被告人)弁護制度の新たな構想」を一つの選択肢とすることが確認されました。これは、「民間法人を公的資金受入・支出組織とし、選任は裁判所が行う」という構想です。

なお、本年7月14日の日弁連理事会で承認された「総合的法律扶助制度確立に向けての基本方針」では、「刑事被疑者弁護・少年保護付添に関する公的弁護制度が 法律扶助の形式によることとされる場合」について、「民事法律扶助に関して、財団法人法律扶助協会が長年の事業実績及び組織整備によって民事法律扶助法に基づく事業運営主体に指定を見込まれる状況にあることに鑑み、今後の公的弁護制度の創設を含む新たな改革にあたっても、引き続き同協会を運営主体とすること」が方針とされています。


2.「国費による被疑者弁護制度」とガイドラインの関係は

「国費による被疑者弁護制度」が憲法の要請に基いて、立法の空白を埋めるものであり一日も早い実現が求められる課題であるのに対し、「ガイドライン」策定は「弁護活動の水準向上」という弁護士会・日弁連の責務を果たすための課題であって、両者は位相を異にする問題です。しかし、「国費による被疑者弁護制度」の実現が現実的になった現在、法務省等からは、制度の運営主体となる「民間扶助団体」等に「ガイドライン」を策定させ、弁護活動の適正を担保させる必要があるとの主張がなされてきたことから、両者の関係に新たな局面が生じていることを直視する必要があります。

まず、これまでの経過をふり返ると、98年12月の「意見交換会」において、法務省側から「検察の立場から報告されたもの」として「弁護活動問題事例」が紹介され、「弁護活動についての準則の必要性」が言及されました。これに対し、日弁連は、「国費による被疑者弁護制度」と「弁護活動の水準向上」という課題とは位相を異にするものであることを指摘したうえで、訴追側の視点から捜査妨害があったか・真相解明に支障があったか否かが問われるべきではなく、被疑者・被告人の視点から見て誠実義務履行として十分かが問われるべきことを基本としつつ、全面的に反論しました。そのうえで、弁護活動の在り方については法務省が容喙すべきものではなく、弁護の質・水準は日弁連が自主的に担保すべきものであり、そのために日弁連は「ガイドライン」検討を進めていることを強調しました。このように、日弁連による「ガイドライン」検討が、刑事弁護に対する介入の危険に対抗するものとして客観的に存在してきたことが留意されるべきです。

さらに、「国費による被疑者弁護制度」が実現段階に入った現在、日弁連において「刑事弁護ガイドライン」策定を主体的に進行させることがなければ、例えば「民間扶助団体」による「ガイドライン」制定という動きが強化される可能性があることを否定できません。すなわち、日弁連が自ら「ガイドライン」を策定することにより、被疑者に提供すべき弁護活動内容を明らかにするとともに、弁護水準向上の方策を具体的に示すことが、日弁連以外の「ガイドライン」策定の動きに対抗することになるとの客観情勢が生まれているといえるのです。

この点に関し、前述した本年7月14日の日弁連理事会で承認された「基本方針」では、「刑事被疑者弁護・少年保護付添などに関する公的弁護制度の実現に際しては、被疑者・被告人に対する刑事弁護が、公権力の行使に対して被疑者・被告人の権利・利益を擁護し、国家刑罰権の行使をチェックする本質を有することに鑑み、弁護人・付添人の職務の独立性・自主性を確保し、あわせて、弁護活動の水準の確保等に努める。」とし、さらに、それが法律扶助の形式で行われる場合「公的弁護に関する運営主体の手続、審査及び監督等において、弁護人・付添人の職務の独立性・自主性を確保すること」が指摘されています。日弁連は、この方針に基づいて「国費による被疑者弁護制度」を実現するとともに、他方で、弁護活動の自立性・独立性を確保するという基本的視点に立ち、「ガイドライン」問題を検討すべきことになります。


(5)討議資料条文案(研究会第二次案)の内容について


1.討議資料条文案(研究会第二次案)は、どのような性格のものとして位置づけられているのか

討議資料条文案は、前記V・2で述べた「ガイドラインの必要性」の各視点に則して、(1)ミニマムスタンダードとしての内容を包括しながら、基本的に、(2)標準的弁護活動指針を示すものとして策定されており、さらに、(3)弁護士倫理解釈の明確化をも図る性格のものとして位置付けられています。

しかし、刑事弁護センター全体会議での討議では、こうした討議資料条文案の立場を支持する意見のほか、ガイドラインの内容を、上記(2)の標準的弁護活動指針に絞るべきであるとの意見、さらに@のミニマムスタンダード(最低限行なわれるべき弁護活動指針)に絞るべきであるとの意見も出されており、今後の会内討議では、これらの意見を含め、ガイドラインの位置付けと内容につき検討する必要があります。


2.討議資料条文案(研究会第二次案)のいくつかの条文の提案趣旨について

「研究会第二次案」は、討議のための一参考資料であって、全国討議の「たたき台」とされているものではありません。すなわち、今後、同案とは全く別個の条文案の提案を含めた議論が行われることになります。ただし、「研究会第二次案」のいくつかの条文案について、提案趣旨についての基本的疑問が出されていますので、以下、若干の説明をしておきます。

1) 第3、4、6条に「適切」という概念が用いられている趣旨は

討議資料条文案(「研究会第二次案」)の第3、4及び6条に「適切」という用語が用いられていることについて、弁護活動規制の根拠として使われるおそれがあるとの疑問が出されています。これらで、「適切」との用語の趣旨は次のとおりです。(5月31日付日弁連刑事弁護センター竹之内副委員長「研究会第二次案に関する説明」参照)。

第3条は「弁護人は、被疑者・被告人に対し、黙秘権その他の防御権について充分に説明・助言し、被疑者・被告人がそれらを適切に行使できるようにするものとする。」との規定ですが、ここで「適切に行使できるようにする」というのは、被疑者・被告人に対し、黙秘権や供述録取書への署名拒否権等を「理解させる」だけでなく、必要な場合に現実に行使し得るだけの十分な説明をなすべきこと、さらに必要な助言も求められるとの趣旨です。

第4条は、「弁護人は、接見交通権、防御権ないしは弁護権に対する不当な制限や妨害に対し、適切な対抗措置を採るものとする。」との規定ですが、ここで「適切な対抗措置」とは、準抗告・抗告あるいは弁護士会への通報と会としての対処など、状況に応じた対抗措置を採るべきであることを示したものです。

第6条は、「弁護人は、被疑者・被告人に対し、その防禦に必要な情報を適切に提供するものとする。」との規定ですが、ここで「適切に」としたのは、弁護人が知り得た事実や情報でも、内容によっては、被疑者・被告人に伝えることがかえって動揺や思惑を誘発する場合もあることから、報告・説明すべき事項や範囲については、弁護人の判断による取捨がなされるべきとの考え方に立ったものです。

2) 12条3項は、真実義務を肯定する規定ではないのか

12条3項〔甲案〕は、「弁護人は、被疑者・被告人の援助者としての立場に鑑み、真実発見に協力する義務を負わない。但し、虚偽であると判断した証拠を提出するなど積極的に真実を歪める行為を行ってはならない。」との規定です。同項については、甲案の本文のみとする〔乙案〕、甲案の但書のみとする〔丙案〕、及び3項を置かないとする〔丁案〕が併記されています。

甲案は現行「弁護士倫理」7条の解釈を、刑事弁護において限定することを目的とした提案です。すなわち弁護士倫理7条は「真実の発見」と題して、「弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならない。」と規定しているため、例えば、被疑者・被告人に供述拒否を勧告する弁護活動に対して「事案の真相解明の妨げ」とする批判の根拠とされて援用されています。そこで、甲案本文は、弁護人に「真実発見に協力する義務」がないことを明確にする規定を提案しているものです。

ただし、「真実発見に協力する義務」が否定されるとしても、弁護人が、証拠隠滅・偽証教唆の禁止など一定の行為規範に服することは当然であるところ、この「行為規範」の内容については、(A)「(1)刑法などの一般的禁止規範に違反してはならないこと、(2)刑事訴訟法上のルールに従うことだけである」との見解と、(B)「(1)及び(2)に加え、(3)『積極的に真実をゆがめる行為をしてはならない』という義務がある」との見解があります。例えば、「被告人が、事実に反するアリバイを立証するためとして、事実に反する記載をした日記を証拠としたい旨弁護人に求めた場合の証拠請求」について、刑法の証拠隠滅罪・犯人蔵匿罪等に該当しないとすると、A説からは行いうることになりますが、B説からは行いえないことになります。

甲案は、B説の立場から、3項但書として「虚偽であると判断した証拠を提出するなど積極的に真実を歪める行為を行ってはならない。」との規定を提案しています。これに対し、乙案は、「積極的に真実を歪める行為の禁止」については見解が分かれているため規定を置かないのが適当とする立場です。

他方、丙案は、「積極的に真実を歪める行為の禁止」については甲案と同じ立場(B説)に立ちますが、甲案本文の「真実発見に協力する義務の否定」は明文で規定する必要がない(ないし適切でない)とする立場です。

以上に対し、丁案は、「真実発見」に関する問題全般について、規定を置かないとする立場です。この立場は、弁護士倫理7条の「弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならない。」との規定を限定する必要性自体を認めないことになります。

3) 13条(共犯事件の同時受任)は、弁護活動の制約になるのではないか

討議資料条文案(「研究会第二次案」)の第13条(共犯事件の同時受任)の甲案に対して、特に集団事件における弁護団活動を困難にするものではないかとの疑問が出されています。

留意されるべきは、この規定は、弁護権について「外在的制約」を導こうとするものではなく、被疑者・被告人の権利保護拡充の観点から提案されていることです。すなわち、ここでの問題は、共同正犯としてAとBが逮捕された場合、Aという一人の被疑者・被告人の弁護人となった者は、「利害対立の可能性がある」共犯者Bにとっては「不利益」となりうる弁護活動をも視野に入れなければ、Aの利益・権利の擁護及び防御権の援助という任務を十分に果たせないのではないかということです(被疑者・被告人の視点からいうと、複数の被疑者・被告人に一人の弁護人しかいなければ、個々の被疑者・被告人が弁護人に対するコミュニケーションを自ら制約し、対立を持ち出すことを自己規制し、結果として十分な主張・防御が阻害されてしまうことすらあるということができます)。この点、昭和62年日弁連第一回国選シンポジウム報告書は、「憲法に保障された弁護人依頼権を尊重するため」1被告人に対し1国選弁護人を選任すべきことを強調し、また、実際に単位弁護士会においても裁判所に対し同趣旨の申入れが行われてきていますが、この条文は、こうした取組みと同じ立場からのものです。

第二次案での甲案は、「1被疑者・被告人に1弁護人」の見地を原則とする立場からの規定であり、乙案は、「捜査段階においては被疑者の供述について任意性の担保もなく、流動的であることから、公判と同じ基準で律することについて疑問がある」との考え方から、捜査と公判で基準を区別した規定となっています。

但し、甲案でも、共犯事件においても、例えば両名ともに否認しており供述に不一致もないときなどで「個別利益を擁護する弁護活動」より「共同の防御」の必要が大きい場合については、同時受任できるとしています(13条の2但書)。

4) 16条(記録の管理)は、社会的な裁判批判等を規制することになるのではないか

討議資料条文案(「研究会第二次案」)の第16条(記録の管理)前段に対して、社会的な裁判批判や捜査機関弾劾を封ずる意図があるのではないかとの疑問が出されています。

第16条前段は「弁護人は、検察官から開示を受けて謄写した証拠書類を、弁護活動その他正当な目的の範囲で用いるものとする。」との規定です。

この規定は、公判で取調べられていない書類を対象とするものです(公判で取調がなされ公開された記録については、プライバシー保護等の一般規律の問題と考えられます)。

この点、刑訴法47条は「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」と定めていますが、第16条前段は、刑訴法47条の「公益上の必要その他の事由」には不当な身体拘束に対する弁護活動等が含まれるという例外を広く認める解釈を前提とし、さらに、「他事件での証拠としての使用や司法制度改革のための資料としての使用、研究資料としての使用や出版など」が「正当な目的」の使用として肯定されるとの立場から提案されています。

以上

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