「ミランダの会」とは

アメリカの映画やテレビドラマの中で刑事が容疑者を逮捕するときには、必ず次のようなセリフが登場します。「あなたには黙秘権がある。あなたが述べたことは裁判であなたに不利な証拠となる。弁護士と相談することもできるし、取調べに弁護士を立ち会わせることもできる。自分で弁護士を雇うことができないときは、公費で弁護士を雇ってもらうこともできる。あなたはこれらの権利を放棄しますか」。このセリフはドラマの中だけではなく、刑事が実際に容疑者を逮捕して取調べをしようとするときには必ず言われています。これは「ミランダ警告」と呼ばれているもので、刑事はこのセリフを書いたカード(右上写真)を携帯しています。このセリフを警察が容疑者に告げ、容疑者がそれにもかかわらず弁護士なしで取り調べに応じたのでなければ、たとえその後で容疑者が罪を自白しても、その自白を証拠として使うことは出来ません。のみならず、その自白に基づいて発見された証拠物も裁判で利用することが出来ないのです。ようするに、アメリカの容疑者は、取調べを拒否することができ、取調べを受けるにしても取調室に自分の弁護士を立ち会わせる権利があるのです。

このような権利は1966年のミランダ対アリゾナというアメリカ連邦最高裁の判決によって確立したものですが、この判決は、合衆国憲法第5修正による黙秘権の保障条項の解釈としてこの権利を導き出したのです。第5修正は次のように述べています。「何人もいかなる刑事事件においても自己に不利益な供述を強要されてはならない。」ミランダ判決は、警察の取調室で取調べを受けるという状況が、個人の抵抗力を弱め、供述を強要する危険を常に伴うので、黙秘権を保障するためには、個人に取調べを受けることを拒否する自由を与え、かつ、弁護人と事前に相談し、弁護人に取調室に立ち会ってもらう権利を保障しなければならないと言っているのです。
逮捕された経験のない人でも、少しの想像力を働かせれば、拘禁され取調室に連行され、刑事から尋問を受けるということがどんな様子なのか理解できると思います。黙っていようと思っても、取調室からでることが許されず、弁護士の立会いもなく、刑事から繰り返し質問を受ければ、黙っていることなどできるはずはありません。何時間も刑事から取調べを受けること自体が相当な苦痛であることは容易に想像が出来ます。アメリカの判例は、この常識を再確認したに過ぎません。

ところで、日本国憲法38条1項は合衆国憲法第5修正とそっくり同じ言葉で黙秘権を保障しています。「何人も自己に不利益な供述を強要されない」と。けれども、日本の容疑者は、逮捕されると何時間でも何十時間でも何日でも何十日でも取調べを受けなければならないことになっています。逮捕された人は刑事の取調べを止めさせることができないのです。取調べに自分の弁護士を立ち合わせることも許されていないのです。その結果、実際はやっていない犯罪を自白させられ、その自白に基づいて死刑判決を下された人すらこの国には存在しています。
私どもは、このような日本の取調べ制度は、憲法に違反するだけではなく、野蛮な制度だと考えています。このような制度は一刻も早く廃止されるべきだと考えています。

日本の取調べにはもう一つ野蛮な点があります。取調べを録音したりビデオに記録したりすることがなく、取調べの結果は刑事が要約した供述調書にしかならないということです。供述調書は容疑者の生の言葉を記録するのではなく、刑事が作文して容疑者に署名させるだけなのです。長時間にわたる取調べに疲れはてた容疑者が刑事のことばに頷いただけなのに、あたかも容疑者自身が物語ったような文章が作られ、容疑者に署名させるなどということは幾らでも行なわれています。それでも、裁判になると、刑事は「被疑者の言うとおりを書いた」と証言します。被疑者にはそれに反駁する材料がまったく与えられていないのです。これは取調べの様子をありのままに記録したものがないからおこり得ることです。欧米諸国や台湾では、取調べの録音・録画が法的に義務付けられています。国連の人権委員会は、日本政府に対して、取調べを電気的に記録するように勧告いたしました。しかし、この点についても、日本政府は一向に改めようとはしていません。
私どもは、この点についても一刻も早く制度を改善すべきだと考えています。

ミランダの会は、1995年2月に弁護士の有志が集まって結成された任意団体です。今述べたような、野蛮な取調べシステムを廃止させ、容疑者に取り調べの拒否権を与え、かつ、取調べを録音・録画することを義務付ける制度の創設を私どもは目指しています。
私どもは、自分たちの依頼人がこの野蛮な制度の犠牲にならないように、最大限の努力をしています。この活動に対して全国の検察庁や警察署は強い反発を抱き、私どもの弁護活動を攻撃してきました。私どもの弁護活動を「違法」と言って攻撃し、依頼人に向かって弁護人の解任を迫ったりする事例が後を絶ちません。しかし、少しの想像力と理性があれば、私どもの主張が理にかなったものであることは容易に分かることであり、私どもの活動への理解者はかならず増え、この野蛮な取調べ制度もいつか必ず終焉を迎える日が来るものと信じております。
ミランダの会は弁護士と研究者が中心の会ですが、そうでない人も「賛助会員」として参加することができます。会は、規約と弁護要領を定め、それに従った弁護活動をすることを奨励しています。年1回の総会のほか、随時シンポジウムや新人弁護士や司法修習生向けの研修会を開いております。また、このウェブサイトを通じて様々な情報を提供し、掲示板(ミランダフォーラム)上で意見交換も行なっております。
あなたがミランダの会に参加することを心待ちにしています。また、ご質問などはお問い合わせフォームにて受け付けていますので、ご自由にお寄せください。
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